建築とは、オブジェクトではなく関係性
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現在、日本で最もホットな中堅建築家:隈研吾。隈氏といえば、個人的には明確な作風というよりは、何をやってもそれなりのことができる「万能人」というイメージがある。
その著書「反オブジェクト」は、実作品を例示しながら独自の建築論を語っており、わかりやすく興味深い内容に仕上がっている。本書の主旨は以下の言葉によく表れている。
「世界の中に屹立する建築ではなく、主体と世界をつなぐきっかけとなるような建築をつくりたい」
「建築を通じて、人間という主体が世界と接続される/建築とは主体と世界の間に介在する媒介装置」
本書では、ブルーノ・タウト設計の日向邸を例に挙げ、「接続」「流出」「消去」「極少」「線へほどく」「転倒」「電子に置換」「粒子へ砕く」などのキーワードを用いつつ、建築とは「オブジェクトではなく関係性」であると主張する。
オブジェクト的「切断」に対して反オブジェクト的「接続」の要として、(「空間」に加えて)「時間」という概念を持ち出し、「能舞台」という日本古来の演出様式に注目しているのもポイント。
先述のように、モダニズム本流から外れたタウトを評価するのに対し、モダニズム本流を環境から切断された「オブジェクト」として批判。特にコルビュジェは「ピロティ」、ミースは「基壇」という手段を使って「建築を切断させた」と分析する。
「モダニズム建築は、オブジェクト型であり、イデア型」との記述を受け、ふと頭に浮かんだのが、西洋哲学と東洋思想の発想の相違。隈氏の言う「オブジェクト」とは西洋哲学的発想に近く、「関係性」に注目する「反オブジェクト」は東洋思想(個人的に興味のある仏教的「縁起」)を連想させる。
建築自体がオブジェクトであることは免れないので、すでに内部矛盾を孕んでいるのはやむを得ないが、形ではなく関係性に注目する設計手法は、個人的にも模索中であり、非常に示唆的である。