J.P.モルガン宣伝本のようでもある…
★★★★☆
面白くて二日で読み切りました。しかし感動はしなかった、といって感動を狙った作品ではないのでしょうが、LTCMやEnronなど、金融本には何故か不思議と感動的なってしまう興亡話というのがあるのです。本書は「なるほど〜」という点では感心しましたが、著者が狙った(かもしれない)ほどには「人間なるもの」の深遠や業を垣間見せる金融危機物語にはなっていません。メリウェザーやジェフ・スキリングのような立ちキャラもいないし。
「妖怪系金融商品や妖怪系レバレッジやぶら下がり系ヘッジファンドに手を染めなかったせいで、金融危機後に評判を高めた銀行」であるJ.P.モルガンが中心の話で、その枠内ではある程度フィールグッド物語になっています。しかし実は、金融危機の優等生であるJ.P.モルガンこそが九十年代半ばにクレディットディリヴァティブを編み出した銀行なのである、というのが味噌のようです。何故に元祖の銀行が今回比較的手を汚さずに済んだのか、についての作者の判断は、おそらく、その一、CEOが現場主義の上にバンカー魂のあるオトコだったから、その二、幹部クラスにクレディットディリヴァティブとそのリスクについてよく知る人間がいて警戒感があったから(一方、他行の偉い人たちは何も知らなかった)、あたりだろうと思います。そして私が「感動しない」となったのは、「あくまで『例外』でしかなく、もしかしたらラッキーだっただけかもしれない名門銀行に焦点を当ててフィールグッド系な話を提示されてもなぁ」というヒネくれた気持ちから。
Super seniorの重要性や危険性というのは最後までなんだか分かりませんでしたが(急に毒性物質に変身したようなSF的印象しか)、今回初めてSIVが何か分かりました。ヘッジファンドとどう違うのか、何故CPなんて発行出来るのか、と首を傾げていたのですが、ああナルホド、いざとなると親銀行からの緊急融資枠があると。かように大動脈で繋がる別働隊がオフバランス扱いでアリだったとは、げに凄まじきもの、米国金融。
わかり易い作品ですけど.................
★★★☆☆
見事にまとめてますわ。さすがgillian tettですわ。日本物Saving the Sun: How Wall Street Mavericks Shook Up Japan's Financial World and Made Billionsだとその人工的な客受けを狙った細工がどうも鼻についたのですが、さすがに英米物ではうまくその筆致とストーリー展開が見事にはまっています。JP Morganというderivative houseの1994年のアメリカでのoffsiteのシーンをスタートに使い、最後まで、その場に居合わせたメンバーを中心として話を展開させたのは、ストーリーの構成としては大成功でした。狙いは、このどうしようもない業界にも、ある程度の倫理とリスク管理のかけらはあったということを示すためです。そしてそれはJP Morganという独特の企業文化の伝統を持ったハウスでしか可能ではなかったというわけです。話はsuper seniorという専門用語を中心として展開されます。このリスクを管理できたというよりは他よりは少し早く他者に押し付けたものこそがリスク管理の真髄の実行者というわけです。しかし誰も1994年にsuper seniorなるものの危険性を認識できたはずはないわけで、背後でのこのストーリを作成したpresarioの存在を強く示唆しますね。ただ一ついえるのは、著者はもう数年前からこの金融業界でのcredit bubbleとexcess leverageをいつもFTの紙面で継続的にしつこいほどに取り上げていたという事実です。問題はその崩壊のシナリオの発端については結局のところ最後まで勘以上のものは呈示できなかったというわけです。そう10年間下がるといい続けていれば、それはある瞬間では必ず下がる場面はきますから。derivativeという道具がある瞬間で無限の可能性を示唆したことには個人的にはかなりノスタルジックな共感を持ちますが、それはあくまでも幻想だったのです。ISDAの変質なんか完全に政治ですからね。