やり場の無い憤りとささやかな家族愛
★★★★★
ネオ・レアリズモの作品は、戦後のイタリアの無産階級の生活を描写して当時の社会機構や政治体制の矛盾を鋭く批判した為に、庶民から圧倒的な支持を得た。そうした作品のなかでヴィットリオ・デ・シーカ監督の代表作が『靴みがき』や『自転車泥棒』だ。しかし戦後の経済復興にひとまず終止符が打たれた時、たとえ劇中で描かれている事が真実であったにせよ、惨めなだけで一縷の希望も見い出せないような映画は、庶民の心から次第に遠ざけられていった。その後はロッセッリーニもデ・シーカも巧みに路線を変更した。
失業者だったアントニオはポスター貼りの職にありついて、質屋から受け出した自転車を使って仕事に励んでいたが、或る日その自転車を盗まれてしまう。息子とローマ中を探しまくり、やっとのことで突き止めた犯人は自分達より更に貧しく、しかも病気持ちだった。苦々しく告訴を断念するアントニオ・・・
デ・シーカ監督はこの映画で、どんなに努力しても底辺から抜け出ることのできない庶民のやり場の無い憤りとささやかな家族愛を克明に描いてみせた。現在私達の生活は比較的豊かになったが、精神的な豊かさや家族のあり方についてこの作品から教えられることは決して少なくない。
尚このDVDは1948年制作の白黒作品のリイシュー廉価版で、2009年2月に再リリースされた。セリフはすべてローマ方言で書かれている。