最高の言語学入門書
★★★★★
この本は、言語についてその「形式・構造」と「意味・機能」という側面から論じられています。この本のすばらしさは、まず、簡潔かつ実証的で的を得た説明、適切な例、巧みな構成力、などという点にあると思います。本文が77ページと非常にコンパクトなのですが、言語の本質的な部分については包括的な説明がなされているだけでなく、「心理言語学」「社会言語学」「コーパス言語学」といった周辺領域の言語学の性質にまでふれています。また、言語をどのようにとらえるべきか、言語学がどうあるべきか、という理論的な問題を我々が考える上で、非常に参考になる意見を提供してくれると思います。第1章では、人間の言語を他の動物のコミュニケーションと比較することにより、その特殊性が明らかにされています。第2章では、言語の理論化の問題、チョムスキーやソシュールなどに代表されるような伝統的「形式言語学」の特徴と、言語の本質的な目的を「コミュニケーション」と考える「機能言語学」の特徴、が扱われています。第3章では、言語の構造のすべてのレベルにおいて支配する原理 (syntagmatic and paradigmatic relations)について、第4章では、言語の形式的な側面、すなわち「音声」「語形」「文法」が、第5章では、言語の「意味」をあつかう領域、すなわち「意味論」「語用論」が、具体例とともに考察されています。第6章では、第2章で取り上げられた言語学の理論を形作っていく上で派生する問題に関連させて、周辺領域の言語学について述べられています。この本は言語学の単なる概説書ではなく、言語に関する著書自身の哲学を著わしたものであり、言語学の入門者はもちろん、言語学にすでに精通している方にもおすすめの1冊です。