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ロールズ (「現代思想の冒険者たち」Select)

価格: ¥10,903
カテゴリ: 単行本(ソフトカバー)
ブランド: 講談社
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1日でエッセンスを確認できる秘密の本 ★★★★☆
 自由な社会を堅持しつつ、いかに平等を担保するかを考えたロールズ倫理学の簡便な入門本。ロールズは、功利主義、直感主義、卓越主義に対置する形で社会契約説を援用し、正義の二原理を、有名な無知のヴェールを経由し論理的に導き出します。とはいえ著者によると、古典的倫理学の成果や日常的な道徳(正義感)を否定してはいません。この証左として、ロールズの反照的均衡という概念が丹念に説明されています。また、ヴィトゲンシュタインの規範論(言語ゲーム)と、構成主義的なカント理解などが後景に垣間見られるらしいです。
 著者曰く初学者と玄人筋の両方が読んで満足できるように書かれており、玄人にも満足なように、難解な概念装置は難解なままに説明されると同時に、巻末の用語集ではとても解りやすく噛み砕かれており、さまざまなロールズらしい逸話(ベトナム戦争徴兵時のハーバードでのくじ引きの話とか)が盛り込まれています。彼の子供たちが何をしているかまで書かれています。
 この本で一番ありがたいのは、第四章「正義論の宇宙」でしょう。川本さんの『正義論』読解のエッセンスが原著の章立てで詰め込まれており、原典・和訳を読み進める際に大きな手助けになります。
 私のロールズ理解はたいしたことありませんが、比較的誰もが直感的に正しいと感じることのできる二つの原理から出発して包括的倫理学を構想(基礎付け)しようとしたんだと思います。この二原理は、川本さんによるとフランス革命の自由・平等・友愛の精神と一致しており、この社会を織り成す基底語の変奏だと理解することもできるそうです。
 冷戦下の困難な時代に、正義を構成する原理として最大限自由を確保しながら平等を実現しようとしたロールズのかっこよさは、今でもかなりのものだと思います。 
単なるロールズ入門書に終わらない現代倫理学の好著 ★★★★★
・ロールズの思想を『正義論』を中心として紹介した名著。概説書や入門書にありがちな「思想形成と時代背景」の要約に終わらず、また「ロールズはこれだけ偉かった」という信者のドグマ化に陥ることなく、現代社会における「正義とは何か」という問題を辿る端緒としてまとめられている。

・ロールズの『正義論』は、その問題関心の多様さと分量の膨大さと、そして1979年版の翻訳があまり良くないということもあり、読みやすいものではない。凡庸な解説書(とりわけ日本人のもの)は、その膨大な『正義論』の叙述を踏みはずさまいとして、逆にその議論自体が散漫で分かりづらくなってしまうものが多い。本書はそうした散漫さを回避し、ロールズの思想の根幹をシャープに説明するのに成功している。

・そうした成功は、一見遠回りに思える『正義論』に結実するまでのロールズの思考の軌跡を辿り、その問題関心を事前にクリアにすることによってもたらされている、というのが私の率直な感想である。「功利主義的な正義論批判」「倫理の決定手続きの妥当性」、そして社会経済的不平等に対する「分配の正義の復権」という文脈があって、『正義論』での社会契約論のリニューアル、「公正 fairness としての正義」の構想があること。そうした「ロールズの思想の物語」が「アメリカ社会の正義をめぐる物語」とパラレルに語られる点にも、本書の構成の巧みさを伺うことができる。

・単なるロールズ研究で終わらない著者・川本隆史氏については、さしあたり『現代倫理学の冒険』(創文社)も併読されるのがよいだろう。私は「なぜ人を殺してはいけないか」を改めて問う永井均氏のニーチェ倫理学も好きだが、本書はまたその対極にある現代倫理学の書として読むべき価値があると思う。
入門書としてはいかがなものか・・・ ★☆☆☆☆
 英米系の現代倫理学のチャンピオンたるロールズの思想と生涯を紹介する本書であるが、その目論見は残念ながら失敗していると断ぜざるを得ない。
 このような小さな本で、上のような企てを実現しようとすれば、当然、そのいちいちは簡略なものになる。その結果、記述が非常にわかりにくくなっている。ロールズについて、或る程度知っている人しか本書を理解することは不可能だろう。従って、入門書として本書を手にすることは薦められない。
 著者は、ロールズの主著である『正義論』の解説に筆を絞った方が良かったのではないか。ロールズの全体像を日本の読書界に是非とも伝えたいという著者の心意気は多としたいのだが。
ロールズの人生を軸とした解説書 ★★★★☆
本書は、ロールズの生涯を年代ごとに追いながら、ロールズが示した正義の構想と
はどんなものだったのかが簡単に要約されています。

伝記としては、ロールズという人の生涯を物語としてうまく語れていません。

正義の原理については、ロールズが示した様々な主張が簡単にまとめられていて、
それについての簡単な説明がなされています。ロールズの理論についても、その説
明についても「簡単」に語られているので、深い理解は望めません。事実の羅列が
ほとんです。

しかし、著者自身が言うように、本書の目的は、ロールズという人の考え方・専門
的な用語に親しんでもらうことであり、それを通じて、現在の社会問題に対して自
分で考える姿勢を感じて欲しい(友だちと語り合う姿勢)、というところにありま
す。

そのような観点からは、本書は、専門的な論文のような内容ではなく、簡単なまと
めになっているので、自ら考えるときに役立つ知識を与えてくれると思います。

因みに、ロールズの「正義論」を読もうと思っている方には、本書はかなりお勧め
です。本書は、正義論の解説として、正義論のすべての節の要約があるので、それ
を読んでから実際に正義論を読むと、理解が多少容易になります。

本書には、自分で「正義論」を読むための手がかりにして欲しい、という目的もあ
るので(著者が言っています)、本書を参考にして是非「正義論」を読まれること
をお勧めします。その場合、英語の原文も参考にしながら読むほうがいいと思いま
す。

ロールズを知るための本として、本書はお勧めできます。