小泉論文、田村論文が秀逸
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収録論文では、小泉義之「性・生殖・次世代育成力」が鋭い。小泉は、性愛の常識に囚われず、「健康で正常な」男女の性愛そのものに内在する非対称性、強制性、暴力性、罪責性、原罪性を問い詰める。そして、政治的・社会的な不平等やレイプなどの暴力がなくなれば男女の性愛は平等であるとするリベラルフェミニズムを批判し、解剖学的な男女差からくる根源的な性愛の不平等を説くレズビアンフェミニズムに耳を傾ける。また、ウィトゲンシュタインの弟子アンスコムは、コンドームなどの避妊は、生殖から切り離された快楽としての性愛を可能にするから悪だと主張するが、彼女には、生殖に直結する以外の性愛は罪という、異性愛の「原罪性」の思想が生きている。ラディカルなレズビアンフェミとウルトラ保守のアンスコム女史の、この奇妙な一致! 小泉は、レズビアンフェミが精子銀行を利用して妊娠・出産し、異性愛抜きで生殖と次世代育成を実現したことを高く評価する。また、田村公江「性の商品化――性の自己決定とは」も力作。田村は性的リベラリズムを批判して、売買春を批判しうる根源的な論理の構築を試みる。その最後の論拠は、売買春は「女性のハンディ」に付け込む契約だからという点にあり、つまり男女の性愛には根源的な非対称性があり、女性には性的快感の獲得を男性に依存する「ハンディ」があり、ここに男性支配の起源があるとする(p189)。小泉と田村の考察がともに、異性愛における「女性のハンディ」という「受肉の根源的事実」に突き当たるのが興味深い。