美の東西比較論の是非
★★★★☆
筆者・田中英道氏は、東北大学大学院教授でヨーロッパ美術史研究者として多くの著作を表わしていますし、日本美術史についても多くの著作があります。
はじめに、で書かれているように、現代は知識偏重であり、自分の目で見ることを忘れてしまっている、というのは同感です。洋の東西を問わず、芸術を本で理解するのは無理で実際、作品と対峙してはじめてその美の真髄に触れることができますし、鑑賞する態度としてもそれが一番適当でしょう。
本書で筆者は、西洋美術と日本美術を比較し、世界に通用する傑作が多く存在している、ということを説いています。そのため、同様の似たテーマを扱った作品同士を比較しながら、日本の美の素晴らしさを説明するという手法が全編を覆っています。
悪くはないのですが、贔屓の引き倒し、という諺があるように、世界にはそれぞれ独自の文化の発展が見られます。美しさを見る基準も同じ物差しで計るというのは少し無理があります。「モナ・リザ」の微笑とアルカイックスマイルの法隆寺「百済観音像」、ミケランジェロの「ピエタ」と東大寺の「日光・月光菩薩像」を比較する意味が残念ながら分かりません。
興福寺にある運慶の「無著・世親像」の素晴らしさは同感です。宗達や光琳の琳派、北斎・広重の浮世絵の美もまたしかりですが、世界と比較するのではなく、美の本質をもっと追求されても良かったのに、と思います。なお、筆者は写楽を北斎に比定していますが、近年の研究ではそれはほとんどない説になっています。
豊富な写真と東西の文化比較論について興味を持って読みました。私としては、比較美術の手法ではなく、虚心坦懐にして作品と対峙する中で得られる美の真髄の理解というものが一番作品の鑑賞の姿として良いのでは、と感じ取りましたが。