宗茂とァ千代の不器用な愛情
★★★★★
名将と名高い高橋紹運を実父に、戸次鑑連を養父に持つ立花宗茂は、豊臣秀吉をして「東の本多忠勝に西の立花宗茂」と言わしめた勇将で、島津との戦い、朝鮮の役、そして関ヶ原とその名に恥じない活躍をしました。
この作品はそんな宗茂の、朴訥ながらも人に愛された人生を描いています。
宗茂と言えばどうしても猛将というイメージがあり、そういった取り上げ方をした作品が大半を占めます。
しかしこの作品の素晴らしさは、もちろん武将としての宗茂の生き様を鮮烈に描きながらも、物語を通して正室であるァ千代との生活を軸にしていることです。
一般的には宗茂とァ千代は不仲であったとされており、宗茂が柳河に移封後に別居をしたことがその裏付けのように言われています。
しかしそれらの多くが二人の間に子がいなかったことを理由としており、宗茂はその後も実子を得ることができなかったことからも必ずしも両人が不仲であったとは言えず、別居とは言いながらも柳河城の近くに居を構えたことからも、最近は不仲説が疑われつつあるようです。
作者は宗茂とァ千代は表面では反発し合いながらも、深いところではお互いを認め合っていたと、自分に正直すぎたが故の別れであったとしています。
その設定が非常にすんなりと受け入れられたのは作者の筆力の成せる技であり、まさに似たもの夫婦であったのではないかとも思えます。
あれだけ闊達であったァ千代があっけなく34歳の若さで亡くなった時の宗茂の喪失感が、まさにそれを物語っているようです。
ァ千代に愛され、家臣に愛され、石田三成らの文治派に愛され、加藤清正らの武断派に愛され、そして敵であった徳川家康、秀忠、家光に愛された宗茂は、関ヶ原での敗将ながらも遂には柳河藩主として復活をすることになります。
それは宗茂の器量はもちろんのこと、何よりもその人柄が愛されたからこそであることが、知らず知らずのうちに胸に落ちてくる秀逸な作品です。
通好みの武将を描いた通向けの歴史小説
★★★☆☆
登場時期が戦国後期で、九州は大友氏配下という地理的な要因でメジャーとは言えないが、実父・養父ともに戦上手で知られた立花宗茂を取り上げ、その初陣から生涯を描く。
養父立花道雪の娘で、後に妻となる「誾千代」という魅力的な女性を登場させたことで小説としての魅力が数段増したが、残念ながら十分活躍させているとは言えない。
小説としての丈の問題からか、背景説明などが少なく、著者の筆はひたすら宗茂を追っている印象だ。特に前半部分、状況として大友氏と島津氏との勢力争いという背景があるのだが、俯瞰的な説明はほぼない。こうした予備知識がないとわかりづらい部分が少なくないのではないか。
ともあれ、この手の歴史小説ではあまり採り上げられていない「朝鮮の役」での戦いや、「関が原」での大津城包囲戦(この戦いのため宗茂は関が原の主戦場には間に合わなかった)など、珍しい戦いが描かれている点は評価高い。「誾千代」はじめ、もっと自在に小説世界が展開していたらもっと奥行きがある魅力的な歴史小説になったのではないかと思う。評点は4つ星に近い3つ星。