まず、この本がよくできているのは、高1程度の数学で、きちんとモデルにのっとった丁寧な解説を与えていること。その数学さえも公式集が付いている。用語や式の解釈は大雑把なところもあるが、初学者がさらっと手っ取り早く読むためにはほどよい。
さらに、利子率の決定、情報の非対称性(モラルハザード・逆淘汰)や動学的な状況での考え方など、既存の初学者向けミクロ経済学の教科書よりも広い内容で、マイクロで考えうる領域を総覧してくれている。利子率のモデルは(ケインズ以前からの)まっとうな新古典派の考えに沿っており、動学的最適化はマクロ経済学の基礎付けに欠かせない議論であるから、先端というのは大げさでも、現在の経済学の流れに乗るための道筋を指し示していると言えよう。
ただ難をいえば、公式に依拠して微分を排そうとしたために、もっとも典型的な「トレードオフ」である限界原理(限界費用と限界便益の均等)に基づいて解釈しづらくなり、後のほうでモデルが複雑になったときに数式の意味づけをしていないところ。とはいえどもそれはラグランジュ乗数法さえも使わないこの本には高望みだろうし、それもおそらく気にはならないくらい筆が軽く流し読みできる。