本書は第1部「管理会計の現場」、第2部「基礎理論」からなる2部構成、全9章立て。解説文が豊富に付いた巻末用語集とあわせ、全173ページのコンパクトな1冊に仕上がっている。第1部では、国際派CFOとしてM&Aの世界に身を置いた著者の実経験を伝え、第2部では戦略的意思決定のために必要な基礎理論を解説している。第2章、米国東海岸型エスタブリッシュメント企業の典型であるペプシコ社の連結経営と、第3章、第4章に収められた米国西海岸型ハイテク企業、シスコ・システムズ社のアプローチとの対比などは、とりわけ興味深いパートだ。
収められた項目の網羅性の点では大部刷の洋書などには及ばず、また体験談とテキストというニ面性を同時追求するかのような本書ゆえ、管理会計の標準的な教科書とは考えにくい。個別企業の事例と、すでに広く受容された会計理論との境目が、読者の目にはやや曖昧に映るのではないかと危惧されるあたりは、読者の好みが分かれるところかもしれない。しかし、あたかも時代から取り残されたかのような日本の簿記テキストで会計を学ぶことを苦痛に感じている読者に対しては、あるべき管理会計実務の本質に気づかせてくれる、格好の機会を提供するに違いない。
会計国際化の問題は議論され始めて久しいが、ともすれば会計基準やディスクロージャー規制など財務会計的側面にかかわる問題だけに焦点があてられがちだ。欧米に比べ、日本の会計国際化プロセスに本質的に欠けている部分があるとすれば、会計ルールの標準化の問題だけでなく、むしろ本書が描き出そうとしている「管理会計的なる、内なる発想」の発現の程度と、それを支える企業ガバナンスの自由度の差にこそ見出されるのかもしれない。ふとそんなことに気づかせてくれる、良書である。(任 彰)