日本人は民族移動の末、東端の島に定住した大陸の民である。
★★★☆☆
東アジアの古代史を語るときに、中国の歴代王朝によって残されてきた歴史文書の偏見を修正しなければならないという著者の視点は従来からも指摘されていた。だが、問題はその方法であった。長江文明の考古学的解明は、従来の中国文献学とは異質の古代史が浮かび上がらせつつある。
倭族の概念は、その長江文明の考古学的研究から生まれてきた。著者は、日本人が旧石器時代の長江に源を発する倭族という民族の一種で、民族移動の末、東端の島々に定住地を見つけた一集団である、という説を述べている。その理由として、高床式住居や稲作等々、考古学的、民俗学的根拠を挙げているが、今後発掘が進めば更なる裏づけ史料が出てくることが期待される。
西欧の古代史との対比でもこの仮説の根幹は魅力に富んだものだと思える。地中海や北海周辺の海を隔てた欧州の歴史を見ても、海に隔てられていたから日本は特別な存在である、ということはない、と考えるのは素直な感性だと思う。