話は余りにもどろどろしていて、毒々しいのですが、主人公の一人であるオマール・カイヤーム・シャキールさんが何だか可愛らしく思えて来るのが不思議です。こういうところがサルマン・ラシュディ氏の天才であり魅力なのだと思います。どんなに読み込んでもオマール・カイヤームが具体的に何を考えているのかさっぱり分からない部分ばかりなのですが、許せてしまうのです。
我儘で偏っててそれでいてちょっと物悲しい登場人物達が、止めときゃいいのにということばかりやってドタバタしているうちに、それが一つの国家の大きな流れの転換にまで発展して行くというスケールの大きさもラシュディ氏の小説らしいところ。ラシュディ・マニアには十分に楽しめるお話なのではないでしょうか。
アルカイーダを!予言する下りは見事と言う他ない筆致ですが、話がほぼパキスタンだけに止まってしまっているので、ちょっと物足りなさも感じました。
ラニ・ハラッパのショールの話、凄いです。