本書の2人は非常によい取り合わせだろう。
基本的には、原氏の研究テーマをフレームワークとして、
保阪氏が長年の在野の活動から得た知識を動員する、という構図でしょう。
主に原氏の研究成果でしょうが、
「視覚的支配」「時間的支配」「声の支配」といった、
天皇制を強固にするための様々な制度的工夫が、縦横に論じられています。
ここは原氏以前の研究者が踏み込んでいなかった領域であり、この分野は今後更なる研究を要すると思います。
特に、本書を良書たらしめているのは、
2人とも、昭和天皇を簡単に割り切れる存在ではないと
強く認識している点であり、その認識の強度によって、
イデオロギーからは自由な議論を展開できていると思います。
また、2人の昭和史の解釈は、およそ共有していますが、
昭和天皇への思いは、やはり微妙にずれています。
その点も読んでいて、興味深い点です。
様々な解釈や研究結果を開陳するものの、議論は結果収束しません。
そこで「結局なんなんだろう?」という印象を一部の読者は持つかもしれません。
昭和史と昭和天皇をリアルに認識するということは、
一流の研究者ですら、それほど迂遠なプロセスを経なければいけない、
ということがよく理解できる対談である思います。
間違っても「好戦主義者」「平和主義者」といった変なレッテル貼りは、
昭和天皇研究において、何も生まないということを再認識しました。