地方の活性化に必要なもの
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「クリエイティブ資本論」を読んでいて、その参考文献として引用されていた本書に興味を持ちました。経済の専門家ではありません。
この10年間に読んだ本の中で、最もショックを受けた内容でした。なぜ、この本が日本国内で知られていないのか、不思議に思いました。「クリエイティブ資本論」よりはるかにインパクトのある内容です。テーマは、「地方の経済発展プロセス」は、どのようなものであるかです。事例も数多く紹介されています。
地方に巨額を投じて新しい産業を育成しようとしても、資金を投入している間はそれなりに成長しているように見えるが、資金の投入を止めると時間とともに、元の状態に戻ってゆき、最終的に資金の回収はできないことを説明しています。それは、都市の発展プロセスを無視した投資だからです。言われてみれば、当然のように聞こえます。しかし、歴史的に失敗は繰り返されています。パーレビ国王とMIT留学から帰国した若手官僚たちが目指した「ジャンプスタート」は、まさに白日夢だったのです。
都市の経済は、必要な財やサービスの輸入に始まります。そして、輸入していた財やサービスを地域内で生産できる体制の構築や人材の蓄積を始めます。これが軌道に乗ると、その財やサービスを地域外へと輸出できるように、イノベーションを起こします。このイノベーションを起こすことが、都市の経済発展のための十分条件になります。このような都市発展のプロセスは、「自分でやらなければできない」プロセスで、地域外からの力でできるものではありません。また、イノベーションは、生産性向上による失業を生み出したり、労働の質の変化をもたらします(それは都市の発展の影の部分です)。
私は、地方都市に住み始めて15年ですが、米国時代と比較すると、この「自分でやろうとする爆発ポテンシャル」が日本の地方都市には感じられません。地域間競争に生き残ろうとする意識の弱さ(都市の希望格差)が、首都圏と地方の格差を生み出しているようにみえます。確かに、毎日、平穏無事に過ごせることは、個人的には楽ですが。
内容は、あまり平易とは言えませんし、表現に利用されている英語もかなりの語彙力を要求するので、米国で大学教育を受けていない私の場合、英和辞典が必須でした。論旨は明快です。構文も複雑なものはありませんでした。
政治家の方々、経済産業省や総務省の官僚の皆さん、地方公務員の皆さんには、是非、読んでいただきたい一冊だと思います。また、これからの日本を築こうと考えている学生の皆さんにも、一読を勧めます。今は理解できないことだらけでも、実務に就けば、すぐに「こういうことだ」と理解できるでしょう。
私自身、最近、この本の都市経済発展プロセスを参考に、地方における新産業育成戦略に関する提案を書いてみました。大変、参考になりました。