ある意味でフォークナー入門に最適
★★★★★
初めて読むフォークナー作品として格好の一冊ではないだろうか。Old Southの自然の美しさに圧倒されるのもよい。少年のイニシエーションに感情移入するもよい。白人に対して"Mister"をつけて呼ぶことを拒否する元奴隷の"pride"や、アメリカ先住民の血の孤高を前にして己の生き様を見つめ直すのもいいだろう。また、既に他のフォークナー作品を読んでいる者にとっても、この作品は理解を深めるために必読と言っていい。自然と文明、キリスト教と異教、農本主義、人種、ジェンダー等、フォークナー文学の中核をなす問題群がこの一冊の中に凝縮されている。しかも、こうしたテーマが、決して理屈臭くなく、あくまで豊穣な物語の中に溶け込んでいるところが、この作品の何よりの魅力であろう。英語はフォークナー節がきいていて、ところどころ読みにくいところもある。しかし、それだけの苦労をしても読みがいのある作品であるし、また、細かいところにはこだわらずに、思い切って息の長い文の流れに身を任せてしまうのも、フォークナーを読む快楽ではないだろうか。