人生をより豊かで楽しいものにするかどうかは、お金とのつき合い方次第。本書は、行動経済学を基礎にして、人がお金を使う際に失敗しやすい傾向を分析、紹介している。伝統的な経済学では、人は経済活動において合理的で、自分の利益になるように行動するとされてきた。しかし実際には、下がる株をいつまでも持ち続けてしまったり、クレジットカードを持つと思わず無駄遣いをしてしまったりする。このように人が一見不合理な判断をしてしまう理由を学問的に解明するのが行動経済学である。
同じお金でも給与、ボーナス、賭けごとの儲けなどの出どころや使い道によって、お金の使い方が変わってしまうという「心の会計」、つぎこんだ費用を取り戻すためにますます損失を重ねる「つぎこんだ費用をめぐる誤り」などをはじめとして、統計学や心理学をもとにしたさまざまな分析がなされる。そのなかにはお金に関連するいくつかのケーススタディーと判断テストも含まれており、読者はその質問に答えることで、自分の金銭面での意思決定の際の傾向や弱点を発見することができる。
本書は『Why Smart People Make Big Money Mistakes』の邦訳である。訳が多少堅苦しく読みづらいと感じる部分もあるが、内容はひとつひとつが論理的かつ具体的で、説得力がある。著者が言うように、本書にはお金の使い方における画一的な結論はない。しかし、最後にまとめられた「考慮すべき原理」は教訓として生かすことができるし、なによりも自分自身の行動を見つめなおすきっかけにはなる。(大角智美)
この本の要約
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この本の要約。
人間は選択の決定をするとき、与えられた選択肢のそれぞれのプラス面を重視する傾向がある。しかし、すでに手に入れているものをキャンセル(捨てる)ときは、それぞれのマイナス面を重視する傾向がある。
人は100ドルを失う苦しみは、同じ額を手にする喜びの2倍になる。
オハイオ大学のハル・アーケスとキャサリン・ブルーマーの実験。1982−1983年度のオハイオ大学劇場の前売りチケットの申込者に無作為に割引クーポンを配布した。最初のグループには通常料金の15ドルのままで、2番目のグループにはチケット1枚につき2ドル割引、3番目のグループには7ドル割引のクーポンを渡した。この結果、最終的に劇場に行く回数の多かったのは、最も多くのお金を払った最初のグループであった。
プリンストン大学の心理学者のエルダー・シャファー曰く、「多くの選択肢があるとき、人は行動を延ばしたり、全く何もしなくなってしまいやすい。また、決定を延ばせば延ばすほど、決断しにくくなるということにもなる。」
シャファーは、学生達に分量の多い意識調査表を渡し、回答して返却してくれれば5ドルの謝礼を払うという実験を行った。第一のグループには5日後、第二のグループには21日後に返却することとし、第三のグループには期限をつけなかった。その結果、第一のグループは66%の学生が調査票を返却し、第二のグループは40%が返却し、第三のグループでは、この調査を終えるまでに25%の学生が返却した。人は行うために与えられた時間が長いほど「やらなくてはいかない」というプレッシャーが低くなるのである。
人は自分がすでに所有しているものに対しては、「ただそれを所有している」という理由で、より高い価値をつけようとする。たとえ同じ商品でも、自分が所有していないという理由で低い価値をつける傾向がある。この「所有効果」のために、企業が商品を売る際に、「購入後の返品も可能」といって客に商品を購入させやすくして、その後に返品をさせづらくさせるということができる。
著者のトーマス・ギロヴィッチの調査によれば、ほとんどの人が人生で何を最も後悔しているかというと、「何かをしなかったこと」であることが分かった。人は短期的には失敗した行為に強い後悔の気持ちを強めるが、長期的には「しなかったこと」の後悔の念の方が強い。マーク・トウェイン曰く「20年すれば、したことよりしなかったことを後悔する」。
投信に投資するときは手数料の詳細に注意すべきである。目論見書にある手数料が、年に1%以上かかるところは避けるべきである。たとえ少ない手数料でも、10年すれば数十万円の損失につながるからだ。
コーネル大学のマーケティング学部とマサチューセッツの基礎研究所の共同研究によると、自動車を買い替えると時に、現在乗っている自動車と同じブランドを選ぶ人は、他のメーカーから買い換えるひとより、多くの金を使う傾向がある。例えば、3000人の新車購入者のデータを分析すると、ビュイックを続けて買う人は、他の車からビュイックを買い換える人よりも、平均で1051ドル多く使っていた。メルセデスの場合は、平均で7410ドルであった。
一般的に言って、多くの人は何の根拠もなく、自分の判断に過剰な自信を持っている。スタンフォード大学の心理学者のリー・ロスは、年度の初めに学生達に次のような質問をした。「講義の単位を途中で放棄するか」「サークルに入るか」「ホームシックにかかるか」など。平均して、学生達は自分達の答えに84%の自信があると答えた。しかし、その年度末には、学生達の実際の正解率は70%にすぎなかった。さらに、自分の予測に100%の自信があった場合でさえ、実際にその通りになったのは85%だけだった。
人が自信過剰になる例として住宅の販売がある。FSBO(For Sale By Owner)というのは業界用語で、家の持ち主による住宅の販売のことで、毎年、住宅保有者の約20%が不動産業者の手を借りずに、自分で家を売ろうとする。6%の手数料を節約するためである。しかし、実際にはアメリカ持家協会によれば、FSBOの大多数が結局は不動産業者を通じて販売されることになる。
ハーバード大学の心理学者アイリーン・ランガーによれば、「人が自信過剰になってしまうのは、たとえ失敗をしても将来に向けて自分の都合の良いように解釈してしまうからだ。つまり、コインを投げて“表が出れば私の勝ち。裏が出れば運が悪い”というようなもの。人は行動や信念が正しさが確証されると、自分にはそれだけの実力があると考える。しかし、自分の行動や信念が間違っていたと証明されると、自分以外のせい(運など)にしてしまう傾向がある。」
読みにくいけどすばらしい本です
★★★★★
ちょっと読みにくい所もありますが、本当にすばらしい本だと思います。
・投資やギャンブル
・貯金や家を買うのどの目的
・節約
・夫婦や親子関係
ぱっと考えてもお金に関わることに心理が影響してると感じました。
何回も読み返したい本です。
楽しく読めました
★★★★☆
行動経済学の本です。
構成もよく、楽しくわかりやすく読める本です。興味深い質問が随所にあり、自分ならどう行動するだろうと考えながら楽しく読めました。各章の「どう考え、どう行動するか」の箇所はよくまとまっており後から読み返す際の手軽な要約として役立ちました。
日本経済新聞社の本ですが堅苦しくなく楽しめる本ですのでお勧めです。
地味な内容ですが、役立ちます。
★★★★☆
本書は、お金の無駄遣いを行動経済学の見地から考察し、どのように対処すべきかを論じている。つまり、華々しい資産運用や涙ぐましい節約法を述べるのではなく、お金を賢く使うことを主眼に置いている点で他書とは、一線を画している。
例えば、あぶく銭といわれるように、簡単に入手したお金は簡単に使ってしまう。しかし、お金自体は労働で稼いだものと価値は変わりなく、そのように大切に使うべきである。
また、株など損切りできず、ナンピン買いしてしまうのは、損失を嫌悪するためであり、購入価格を基準にしているためである。そのような場合、現在その株を持っていないと仮定して、また過去の価格にとらわれず、買う価値があるかどうか判断すべきである。
あるいは、目先のリスク(価格のぶれ)につられて株や投資信託の売買をするのではなく長期のリターンを考えるべきである。つまりニュースや価格を頻繁にチェックするのではなく、インデックスファンドのバイアンドホールドを薦めている。
言われてみればどれも当然のことばかりで、なんら難しくないが、意識しないと実行できないことばかり。今後のお金の使い方を一考させられた。
気軽に読める行動経済学入門
★★★★★
行動経済学、行動ファイナンスの入門書的な著作。木村剛やPat Dorceyも推薦していたので、読んでみました。
ただ、行動経済学を独立した分野としてとらえるというよりも、市場効率仮説を前提にしていかなる人間の行動パターンが
合理的な経済的判断を誤るのかという観点で書かれています。
面白いエピソードが満載ですが、細かい数字による説明や検証を省いているので、やや説得力に欠ける印象がある部分もあります。
でも、それが却って気軽に読める雰囲気を出しているのかもしれませんね。