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日本のムスリム社会 (ちくま新書)

価格: ¥756
カテゴリ: 新書
ブランド: 筑摩書房
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日本で「ムスリム」として生きる人たちのこと ★★★★★
 本書は、現代イラン研究を専門とする著者が、日本在住のムスリムについて、綿密なフィールドワークに基づいてまとめあげた、たいへん読みでのある一冊である。
 「ムスリム」という共通のアイデンティティによって結ばれた、「見えないネットワーク」についての報告を読み進めていくうち、こういう世界がすでに日本のなかにあるのだと、なんだか眼を開かれていく思いがした。出版されすぐに入手していたので、もっと早く読んでおけばよかった。

 日本在住のムスリムは本書の推計によれば、2003年時点で7万人強だという。著者が予測したように、現在ではすでに10万人近いのかもしれない。
 日本では個人の属性として宗教が把握されるわけではない。また、ムスリムは日本の「檀家制度」のような形でモスクに帰属するのではないので、日本在住外国人の宗教も特定できないのである。実数を把握するのは容易ではないようだ。
 その多くが仕事と職場の関係から関東に集中しているとのことだが、現在では日本で経済基盤を築き、定住する者も増えているという。こうした定住者と結婚しムスリムに改宗した日本人女性も少なからずいるようだ。もちろん、婚姻とは関係なく個人の意思でムスリムに改宗する日本人もいる。

 実に50カ国以上から来たムスリムが在住する日本では、ムスリムという共通のアイデンティティがあっても、出身地の違いや、イスラーム法の解釈などによて、かなりの多様性があるようだ。もちろん、個人個人の考え方も育った環境によって大いに違いがあろう。言われてみればそのとおりなのだが、十把一絡げにムスリムと捉えてはいたのでは見えてこないのだ。

 ムスリムの生活について書くことは、イスラームが生活全般を律する行動規範を定めた宗教体系である以上、誕生から結婚、そして死と埋葬に至るまでのすべての局面に触れざるをえないことになる。もちろん生きているあいだに重要なことは、礼拝の場であるモスクの確保とハラール食品の確保、そして断食についてである。そして定住第二世代の教育の問題も大きい。
 それにしても、出版時点の2003年でこれほど多くのモスクが日本にあるとはちょっとした驚きである。ムスリムたちによる寄付で不動産を取得し、モスクに改装して使用しているとのことで、著者はその多くを実地検分している。
 本書では、日本人女性がムスリム男性と結婚する際の改宗と、日本でムスリムとしての生活規範を遵守することの困難さについても触れられている。男女を区分する生活習慣のあるムスリム世界ならではのものであるが、こうした面への視点は著者が女性であることも預かって大きいだろう。

 日系ブラジル人をはじめとした在住日系人についてはいろいろレポートもあるが、ムスリムについては話題になることはそれほど多くはない。
 著者が指摘するように、日本社会は「同化を強いる傾向や異質なものを排除する傾向が強い反面、宗教的なものに対しては比較的寛容で無頓着」という不思議な特性がある。この日本社会の一員として生きるムスリムたちの「見えないネットワーク」を知ることは、日本について考えるうえで、すでに無視できない重要な要素になっている。
 ぜひ一読をすすめたい。
ムスリムの現実 ★★★☆☆
日本に住むムスリムの現実は厳しいものである、ということぐらいはあえて言われなくても想像に容易いことだろう。宗教に無頓着とは言われるが他文化に対しては閉鎖的な日本社会において、彼らが信仰を維持してくことは簡単なことではない。

彼らが直面している問題について、一通り教養程度の知識があり、さらにそれを深めるためにこの本を読もうとするのであれば、あまりお勧めはしない。この本に書かれていることは、ほかでも問題視されていることばかりで、あえてこの本を読まなくても知っているようなことばかりであるからだ。たとえば、よくテレビのドキュメンタリーとして取り上げられるようなトピックもこの本では書かれてある。しかも、そういったテレビ番組で取り上げられる内容は一つの問題に焦点を絞って放送しているのに対し、この本は日本のムスリムが直面している問題を包括的に取り上げているため、どうしても個別的には浅い内容とならざるをえない。

彼らが直面する問題をより一層深く学ぼうとするならば、その導入としてこの本を読み、さらに個別の問題(例えば労働問題やモスクの宗教法人化、移民問題など)を詳しくとりあげた本を読むことをおすすめします。
在日ムスリムの実態を把握し、日本に対する誤解や偏見を解くための最初の一歩 ★★★★☆
基本的に日本のイスラム研究者の著書は、イスラム世界への観念的かつ過度な思い入れが目立つ一方、真新しい記述は殆どない。しかし本書の内容は、在日ムスリム社会という、ユニークかつ日本の将来に繋がるテーマを扱っており、一読の価値はあります。
数十万単位の難民が定住する欧米諸国には及びませんが、グローバル化の中で、日本も着実に変化を遂げています。日本国内の生活圏は、ムスリムに限らず、異民族の文化や宗教に接する最も手っ取り早い場所であることは確かです。伊勢崎のモスク、六本木の預言者生誕祭、日本橋のイスラム評議会事務所等に足を運び、ハラール食品や在日ムスリム向け新聞を購入するだけでも、ムスリムの日常生活がより一層身近になります。ムスリム社会は、異国にある極めて遠い存在と思われがちですが、本書を読めば、少なくとも物理的には、日本人にとって非常に身近な存在であることが実感できます。
しかし物理的にはともかく、本書を読む限り、ムスリムが心情的には日本人の身近に感じられないことも事実です。無数の凶悪事件を後回しにさせて、稚拙な窃盗に過ぎない富山コーラン事件の解決を要求する姿勢や、無差別テロや宗教一辺倒教育への批判に乏しい姿勢は、非イスラム国家の価値観や制度に対する、ムスリムの理解の乏しさを示します。こうしたムスリム側の態度に言及しない著者の姿勢は、研究者として片手落ちであり、物理的には身近であるムスリムが、遠い存在に感じる原因にもなります。
日本は飽くまで卑劣なテロリストと戦っており、ムスリムとは共存を望んでいること、ムスリムに日本の価値観を理解してほしいことを、私たち日本人は説明し続ける必要があります。共存には相互の理解が不可欠であり、在日ムスリムの実態を把握し、日本への誤解や偏見を解く上で、本書が最初の一歩になることは間違いありません。
バブル崩壊後の共存社会を考える ★★★★★
バブルの頃は東京周辺で多く見かけたイラン人。上野公園とかでタムロしてました。最近はどうしてるのかと思ったら、多くは母国で日本にいた頃を懐かしんでいる一方で、日本で3Kといわれる仕事に従事してたことをひた隠すケースも少なくないとのこと。彼らはおしなべて高学歴だそうで。思えば、ちょっと前まで都内各所でムスリムの人を見かけましたが、現在は相当数が日本を去った反面、残った人たちも関東近郊で慎ましく生活しているようです。本書では主に日本に出稼ぎに来たパキスタン人やバングラディッシュ人などムスリムの人々がどういう事情で母国を去って日本に来たのか、そして日本に残る人たちが実際に直面している問題について触れています。マイナリティとしてのムスリムがいかに日本で生きられるかの苦労を知ると共に、多様な文化が共存した住み良い日本社会を作り出すことの重要性について考えさせられます。
身近であり縁遠い存在 ★★★★★
題名の通り日本在住のムスリムについて扱った書である。
日本のモスクの所在から筆を起こし、モスクを立ち上げた人々へ感心が赴く。その大半は日本に居住する外国人ムスリムの有志が建造したものである。

そして次第にイスラム研究者である著者の関心は日本に居住するムスリム自身へと向かってゆく。後書きで触れているとおり、イスラム研究者である著者ですら日本に居住するムスリムの現状をほとんど知らなかったのである。身近に住んでいても縁遠いムスリム。

そのようなムスリムの生活の実態は非常に興味深い。

ムスリムの問題は純粋に宗教上の問題に留まらず、食生活を代表する日常生活の問題となっている。さらに進んで日本人と結婚したムスリムにっては2世ムスリムの教育問題や死後の処理問題もすでに現実化している。また出身国による様々な差異も非常に興味深い。

自分とは無縁と思っていた問題が実は非常に近いところに存在していることを教えてくれる好著である。