神々がまだ地上を歩いていた古代日本を舞台としたファンタジー。『白鳥異伝』、『薄紅天女』と続く「勾玉」シリーズ3部作の第1弾。1988年に福武書店から刊行されたこのデビュー作は、日本児童文学者協会新人賞を受賞、ラジオドラマ化もされ、アメリカで翻訳出版されるなどの話題を呼んだ。本書は徳間書店から1996年に再刊行されたものである。
国家統一を計る輝の大御神とそれに抵抗する闇の一族との戦いが繰り広げられている古代日本の「豊葦原」。ある日突然自分が闇の一族の巫女「水の乙女」であることを告げられた村娘の狭也は、あこがれの輝の宮へ救いを求める。しかしそこで出会ったのは、閉じ込められて夢を見ていた輝の大御神の末子、稚羽矢。「水の乙女」と「風の若子」稚羽矢の出会いで変わる豊葦原の運命は。
福武書店版の帯の文句がなによりもこの本の世界を物語る。
「ひとりは「闇」の血筋に生まれ、輝く不死の「光」にこがれた。 ひとりは「光」の宮の奥、縛められて「闇」を夢見た。」
不老不死、輪廻転生という日本の死生観や東洋思想とファンタジーの融合をなしえた注目の作品。主人公2人の成長の物語としても、その運命の恋を描いた恋愛小説としても、一度表紙を開いたからには最後まで一気に読ませる力にみちている。中学生以上を対象とした児童書ではあるものの、ファンタジー好きの大人の読書にも耐えうる上質のファンタジーである。(小山由絵)
日本神話ファンタジー、待望の文庫化!
★★★★★
地上を治める光(輝)と、地下を治める闇のそれぞれに王が居て、反目して争いもすれば惹かれあってもいる古代日本が舞台です。主人公の狭也(さや)は闇の一族でありながら輝の月代王に惹かれ、誘われるままに輝の宮へ采女として入ります。そこで稚羽矢(ちはや)と出会い、闇の一族の宝である大蛇の剣を目にする。その剣は輝の一族を滅ぼす力を持つため稚羽矢に封じさせているのです。
狭也は月代王が本当は自分を求めてはいないことに気付いて闇の一族のもとへ走ろうと考えます。一方、兄姉に閉じ込められている稚羽矢を外に連れ出そうとするうち、稚羽矢も狭也と共に行くと言い出します。稚羽矢は輝の末の御子。不死の身であって飲み食いすら必要ありません。自らも理解していない力を秘めていて、その力を制御することもできず、どこでいつ破裂するか知れない「爆弾」なのです。
狭也のまっすぐで飾らない気性と行動力、そして稚羽矢の自我がすこしずつ芽生えていく様子が生き生きと描かれます。待望の文庫化。一度は読まれることをお勧めします!
いい
★★★★★
いい作品としか言えないです。
中学時代から読んでいますが、大人になった今でも何回も読んでしまう作品。
背景描写の妙
★★★★☆
ホントに背景描写が綺麗です。巧いとかじゃなく綺麗です。
ただの文字の羅列がここまで人を気持ちよくさせるのかと感服してしまいました。
この本を読んでいると小難しそうな古典にも興味がわいてくる想いになります。
一度読んでみても損はないと思いますよ。
丁寧な作り。
★★★★☆
読み易い和風ファンタジー。セミ-ライトノベルって感じか。
作者は否認しているが、オリジナリティーが薄らとしか感じられないくらいに日本神話のあの辺とキャラクターがカブっている。ベースにしていると言うよりは、モデルにしていると言えるであろう程度に。
それでもストーリー展開は面白いし、心情だけに留まらず様々な描写が中々魅力的。変に気取っていない主人公も好感が持てる。
みずみずしい神話世界
★★★★☆
読んでみました。
気がついたら午前三時になっていました。
上橋菜穂子さんの「守り人」は中年女性を主人公に据えていて、物語の軸の一つに大人の男女の心の動きというのがあります。その点、児童向けファンタジーの枠からだいぶ外れています。こちらはもっと「普通」の作品で、美少女と美青年の恋物語ですから、その分物語世界に入りやすい人が多いでしょう。ネタバレになるのでこれ以上書けませんが、物語の根っこの所がほんとうに切ない恋愛なんですね。
「守り人」のもう一つの読みどころは、それぞれが江戸時代程度の生産力とインフラを持つ国々からなる国際社会を作り上げた点にあり、その土台には民俗学をベースにした創作神話があります。対してこちらは日本神話の国産みをベースにしており、耳なじみのある話が出てきます。もっともそれはあくまでもベースであり、記紀の神話よりももっと一般的な、地母神と天空神からなるオリジナルの神話世界になっています。岩波新書の「多神教」を思い出しました。
文章もこれが初めての作品とは思えないでき。確かに構成こそ粗い感じがしますが、女の子の心の動きが瑞々しく表現されています。他の作品も読みたくなりました。