ホワイティングが主役に選んだ、実在の人物ニック・ザペッティは、まだ占領地であった東京を訪れ、そこに居残ることを決意する。はした金狙いの詐欺家業で一花咲かせようとしていたが、だらだらと続いていた支払い不能の状態によって我に返り、ザペッティは思いつきでレストランをオープンする。困難を乗り越え、「ニコラスピザ」は東京に住む外国人、野球選手、芸能人、政治家、そしてもちろん地元の暴力団員が集まる50年代の人気スポットとなった。異国の地にレストランを開いた、容易には信用しかねる人物、ザペッティの経営者としての古き良き日の冒険が、この実話の骨子となっている。背後からいつ刺されてもおかしくないような野蛮な環境、ビジネス社会の不正取引など、ヤクザ社会と区別がつかないほどオーバーラップすることが多く、どこでひとつのエピソードが終わって、また次が始まったのかが判然としない。しかし、ホワイティングは巧みに、彼が言うところの「壮大なる富の移行(アメリカから日本へ資本を移すこと)」の過程を詳細に描き出している。なぜアメリカの外交政策(そして共産主義への恐怖)が、知らず知らずのうちに日本へ富を移行させることに甘んじてしまったかを解き明かす。ホワイティングの文体は、啓蒙的で、人を引きつける力を持っており、彼の結論は日米両サイドから聞こえてくる、保護主義者が使うような安易な表現を裏切ってくれる。
一方、ザペッティは最終的に日本国籍を取り、妻の姓を名乗るようになる。健康状態の悪化と、ピザ帝国の経済的崩壊によって夢破れ、やがて極端な日本嫌いになる。「あんた、映画の『リオ・ブラボー』を見たことあるかい?」ホワイティングは、ある夜ザペッティが外国人客のひとりに話していた言葉を引用する。「いやらしい目つきのカウボーイがたんつぼに金を投げ込んで、町の酔っ払い役のディーン・マーチンがそれにへつらうシーンを覚えているか?それが、日本人が望む外人のイメージだ。日本人は俺たちにディーン・マーチンのようにぺこぺこしてもらいたいのさ」