まだまだ羽生世代に嫉妬を燃やして貰いたい !
★★★☆☆
「構想力」と題名にあるが、むしろ「将棋人生を通じて得たものの考え方」と言った内容。谷川は将棋における「構想力」を"中盤以降のもの"と捉えている。羽生が一時期、「"打ち歩詰め"のルールさえなければ、先手必勝」と唱えていたのとは真逆の考え。羽生は初手から最善手があると信じている。私はこうした将棋観に基づく、大局観の醸成が「構想力」に繋がると思っている。本書では、中盤以降により良い発想を得るために、日頃の研究・知識の蓄積が重要、正確な状況判断が必要、時には常識外の手も考慮して見る、と言ったやや平凡に堕する抽象論が述べられており、「プロ棋士が一局の構想をどう立てるか(養うか)」と言う具体論に興味を持たれる方には失望を与えると思う。特に、"光速の寄せ"の構想が谷川の頭の中で如何にして組立てられるかを期待する向きには。
ただし、本題に関連する挿話で中々示唆に富む事が書かれている。「相手(特に羽生)に嫉妬心を持つと言う事は自分にまだ可能性があると言う事」、「60才を越えてA級に在籍する棋士が居る(当時)事は、自分(当時45才)にとっての"将来の構想"を立てる上での励みになる」、「(例えば)永世名人になった森内の躍進の要因は「自分は自分」と割り切れる様になった事」、「才能とは一つの事をやり続けられる事」、「現代人は情報に振り回されて本能を失いつつある」、「挫折から工夫が生れる」、「礼儀やマナーに気を遣わない人間は絶対に強くなれない」等。実際、NHK杯をTVで観た時、誰よりも深々とお辞儀をするのは羽生なのである。
引退や若手の育成について語っているのも何か感慨深い。「将棋のすばらしさ」を広く伝える事は当然重要であるが、まだまだ羽生世代に嫉妬を燃やして貰いたいと思う。
勝負師が語る構想力
★★★★☆
最近やたらと「○○力」とかいう本が増えている。
この本を最初店頭で見た時、あれっと思った。著者が将棋を指すプロ棋士だったからである。
当然将棋に関する内容が主であろうと思っていたが、意外や我々一般人にも当てはまる内容のことが書かれている。
確かに勝負を掛けた棋士の立場から語った「構想力」ではあるが、その内容の中にはビジネスで競争に勝つ為のヒントが盛られている。
また、最後の章では若者たちへのエールとも取れる内容や、社会批判についても語られていて、著者の述べたかったことが見て取れる。
過去に「集中力」という本を書かれていたが、この書は視野をもっと広めた範囲で述べられており、著者の長年の経験がなければ書けない内容だと思う。
勿論、現役の将棋棋士にも参考になる書である。
勝負師にとっての構想力
★★★★★
勝負師が構想力についてまとめると、まさに本書のような形になるのだろう。一局一局で勝敗がはっきりする世界では、対局前の構想、対局中の構想、そして個々の対局をまとめた(番勝負や年間の振り返り等)構想のそれぞれで存分のパフォーマンスを発揮しないと、一流として生き残れない。こうしたことが筆者の経験を通じて浮かび上がってくる。こうした世界に直接身を置いていない一般ビジネスパーソンにとって、示唆深い一冊である。
後半は構想力というより、勝負師としての心構えっぽくなっているが、それもまた示唆深い。
ただ、ビジネスでの場面に結びつける記述は余計。そもそも筆者の領域ではないし、読者が筆者の考えをどのように租借するかにこのような本は価値があるのだから。
上記のような欠点はあるが、示唆の深さを考えて星五つ。
ビジネスに応用なんかしなくていい
★★★☆☆
敬愛する谷川先生の本であり、
ところどころにシャープな提言があって確かに「なるほど」と思う面もあるのだが、
編集者が内容に介入しすぎなところが鼻につく。
恐らく、本書の編集にあたって編集者がライターに指示したのは、以下の方針だと思う。
・谷川先生のコメントを「ビジネスに応用したらどうなるのか」を必ず記述する
・将棋のわからない人にも理解できるように、あまり局面解説などは入れない
しかし、これが将棋ファンにとって物足らないうえに、不自然な内容に陥っている原因である。
中盤の入り口で、寄せの構想をどうやって描いたのか、といった具体的な話があってこそ
「谷川の構想力」だろう。そこを聞きたい。
編集者は、中核読者層である将棋ファンをまず満足させる内容を志向すべきだ。
頭を使うプロが書く「なんとか力」という本だったらそこそこ売れる、
という発想でつくられた本はもうこの辺にして欲しい。
構想力に乏しい編集と言わざるを得ない。