琴子は、旅行で訪れたバリ島で「真っ赤な大輪のハイビスカスの花」のようになって踊る舞踏家ルバの姿に心を奪われる。彼を踊りの師、そして男として愛しはじめる琴子。帰国後、ルバへのおもいを抱いたままダンス教室を開くが、やがてそこにはルバの娘であり、不思議な魅力とダンスの才能にあふれる少女マヌがやってくる。マヌは祭りの日、ある禁忌に触れ「悪霊」にとりつかれた者として村を追放されたのだった。
バリのダンスをビジネスとして捉えるマヌの兄など、観光地であるバリでしたたかに生き抜いている人々の姿と、観光客の目には触れない奥深くに色濃く残る神秘的なものを、著者は同時に違和感なく描いていく。アジアに魅せられ、幾度も旅を重ねている著者の目に映るものすべては、一度体に取り込まれ、溶けあい、力強い言葉として放たれる。
特に物語の後半、ルバとマヌ、琴子が日本の舞台で踊る場面は、官能的で、読む者を圧倒する迫力に満ちている。ガムランの音、観客の興奮、そして彼らの熱い吐息が今にも聞こえてきそうだ。読み終えてからも、しばらくバリの熱い空気に身をまかせていたくなる。(門倉紫麻)