辛口ですが、充実している良書です。
★★★★☆
コーカサスは、紛争ばかり、というイメージがある。映画「アララトの聖母」で描かれたアルメニア虐殺、アゼルバイジャンではナゴルノカラバフを巡る内戦。グルジアは、バラ革命といわれるシュワルナゼ末期の政治混乱や、オセチア、アブハジアでの紛争。そしてチェチェン。歴史を学んでいると、多くの民族がアジアを東から西へ移動し、その一部には中国、ペルシャや欧州という大帝国の領域へ入るものもあるが、多くが、大帝国の前に、インド、コーカサス、バルカン半島という、「民族の吹き溜まり」のような場所へ行き着く。
紛争情報が切れ切れに届くので、いまいち全体像がつかみにくい。そこで本書に期待ということになるのだが、これだけ複雑に入り組んだ地域を一括して描くことは、やはり難しいのだと思った。現状ベストな構成だとは思うが、結局個々の地域・時代の「切れ切れな情報」の集積、という感じは否めない。基本的に本書の構成は、地理/歴史/政治/文化/社会それぞれの章で、アゼルバイジャン/アルメニア/グルジア/北コーカサス、に分けて記載されるが、ソ連以前は、時代ごとに区切り、全ての地域が同じ章の中に記載されるなど、グルジアやアルメニアなど、比較的まとまった史的展開をしている地域の歴史が追いにくい。また、「政治」にいれた方がよさそうな紛争や経済の項目が、「社会」の方に入っていたり、音楽の項目が、国民文学の項を挟んで前後にあるなど、まとまりがいまひとつな感じもする。
全体に新聞記事の寄せ集めのような感じで、「香り」が漂ってこない感じ。例えば映画の章では、パラジャーノフやコミタスの作品について「圧倒的な映像」で終わってしまう。そもそも日本語情報の少ない地域の辞典として、これだけ充実している書籍に辛口な指摘ばかりだが、「イランを知るための65章」で感じた「香り」がしないのだ。これも地域が複雑で紛争が多いからかも知れない。