人は冬の精神をもたねばならない
★★★★★
1879年生まれ、保険会社役員、44歳にして処女詩集出版。日本でもいまだに無名に近いこの詩人ーアメリカでは正当に評価され、名誉と名声を勝ち得ているが・・。
さて、どんな詩を書いてきたのか?
わたしが持っているのは、国文社発行の酒井・加藤翻訳「場所のない描写ーウォーレス・スティーブンス詩集」である。(テキストはおそらくこの洋書を利用されているのでは)
酒井氏の言葉を引用すると、「描写なしに存在する世界を描く可能性を問い続けること、しかし、それは希求と幻滅のあいだで裂かれ続けること、そういう姿がスティーブンスその人の姿に他ならない。」とある。
ここで、1927年作「雪の人;The Snow Man」の1部を引用する。
ひとは冬の心をもたねばならない・・・
わずかに残った葉の鳴る音に何のみじめさも感じないためには
・・・自身は無であり そこにないものは何も見ず
そこにある無に目をみはる
次に1935年作「ロマンス再説;Re-Statement of Romance」より
夜は夜の詠唱など全く感知しない
夜は ぼくが掛け値なしのぼくであるように 夜だ
これがわかるとき ぼくには1番よくわかる 自分自身と
そしてきみのことが
これ以降、彼の作品は、「これを修辞学に付け加えよ」・「隠喩の動機」・「事象のありのままの感覚」・「物の観念でなく物そのもの」といった、難解で抽象化を極めた作品が多くなる。事物の認識の限界と事物そのものを直裁に捉えることの可能性を詩に託してきたが、彼の本質にあるのは、実は、物と人の関係に対するロマン的心情であり、心身一如の禅的境地であり、万象唱和的な理想世界への憧憬だったと思う。
他に類例のない、全く独自で孤高の光をこの地上に放つ詩人だったというべきだろう。