渋谷毅は、今や、我が国ジャズ界の至宝です
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エリントンを敬愛し、彼から強い影響を受けた音楽家は数知れません。チャーリー・ミンガスや武満徹などその代表例ですが、渋谷毅もその一人です。前作「エッセンシャル・エリントン」で渋谷が示した成果は、これまで多くのジャズメンが残してきたエリントン作品の中でも群を抜く出来栄えでした。そこには、何よりも、エリントンの音楽から我々が常に強く感じている芸術の香気が漂っていたからです。そして、その香気は、このアルバムで更に高まっています。
林栄一のアルトとミンガスの「直立猿人」を髣髴とさせるアンサンブルが印象的な2、エリントン・カラーが濃厚な4、スメタナの交響詩「モルダウ」に似た旋律で始まる6、渋谷のピアノと峰のテナーがデュエットで演じて素晴らしい10、楽しく弾む11、松風のバリトン、峰のテナー、林のアルト、外山のドラムスがそれぞれ聴かせ所を作る12、13。最後15は、渋谷のピアノソロで締めくくられます。
秋吉敏子に年齢的衰えが感じられ、大西順子が未だ復帰前の切れ味を取り戻していない現状で、渋谷は、我が国のジャズ界が世界に誇る至宝と言えるでしょう。
ゆったりとしたひとときを演出してくれる秀作
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渋谷氏がエリントンの名曲を奏でたエッセンシャルエリントンシリーズの第2作。1999年録音の第1作と共に再発売されたのは、これまで入手困難だったCDだけに大変ありがたいことである。
渋谷氏の楽曲への深い愛情と年季を感じさせる自在な演奏が、聴く者の心を開放してくれる。前作に比べるとソロが1曲に減ってしまったのは少々残念だが、それを補うにあまりある息のあったセッションを聴かせてくれる。個人的には、10 曲目 Looking Glass に心ひかれる。峰氏のテナーサックスとのインタープレイがとてもゆったりとしながら洗練されている。
レコーディングエンジニアは、アコースティック演奏のDSD録音で著名な鈴木浩二氏である。この盤はCDなのだが、一聴すると SACD のような音がする。特にピアノのアタックは、これまで絶対に SACD しか聴けないと思っていた実在感がある。不思議なことだ。
なお、Amazon では Hybrid SACD となっているが、大変遺憾なことにこれは SACD 層はない純粋の CD である。SACD に期待していたので残念であった。