いつか誰かが
★★★★☆
著者が本書で戦後サラリーマン小説(および漫画)群を貫くキーワードの一つに挙げているのが、著者の造語「源氏の血」。「会社家族主義」や「サラリーマン人柄第一主義」を謳った源氏鶏太の小説を源流とする創作上の志向を指し、特にバブル崩壊の90年代までは、この「源氏の血」が4コマ漫画やサラリーマン映画において基調低音のように描出されている、という分析である。
本書はそんなふうに、自らも現役の(ビジネスマンではなく)サラリーマンであるという著者が、これまでに共感をもって読み込んできたサラリーマン漫画群の変遷・変質・変貌ぶりを具体的、そして時系列にしたがって紹介・解析しようと試みた漫画評論。評者はここで紹介されている漫画群の半分ほどしか原作群を知らず、そのためもあって読後感は至って新鮮で、話題の漫画群をそこはかとなく「追体験」できたようにも思う。たぶんいつか誰かによって書かれるべきテーマだったともいえ、「二足のわらじ」というには立派にプロチックな著者の筆力にも十分に納得させられた。まとまりが良過ぎて、ほんの時折、予定調和的な気配が瞥見されるのが、わずかに減点といえば減点か。