さて、本書は全7章からなり、1章は予備知識のまとめ、7章は楕円曲線の有理点に関するモーデル-ヴェイユの定理の解説であり、主題は2章から6章までの200頁ほどに濃縮して書かれている。2章と3章は楕円関数論のコンパクトで美しい要約である。p関数とsn関数との相互関係式やp関数をヤコービのテータ関数で表示する公式などは、他書で殆ど触れられていないユニークな話題である。また、3章の終わりに「ラマヌジャンの連分数」の特殊値の導出に関する素晴らしい解説がある。4章はモジュラー群とモジュラー関数の解説である。この理論の背景に楕円積分の周期等分理論があって、(ヤコービの)モジュラー方程式とは楕円積分(周期)の変換前と変換後のモジュラスの間の関係式であり、これを利用して直接計算が難しい楕円モジュラー関数の特殊値を求めようというのである。5章はレベル5のモジュラー方程式の次数が低減できる事に着目した、エルミートによる5次方程式の解法の解説である。6章「虚2次体」は本書のハイライトであり、この数体の最大不分岐アーベル拡大体(絶対類体)が、楕円モジュラー関数の特殊値としての「イデアル類の類不変量」を用いて構成できる事が示されている。
現代の達人による解説を受けながら、19世紀数学の最も華麗な王朝絵巻と現代に息づく壮麗な理論の原風景を見るような気がする、素晴らしい本である。