コーポレートファイナンスの一つの側面
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コーポレートファイナンスに関する書籍の多くはMBAや実務家向けのものです。
MBA上級や博士課程向けの書籍としては,本書かJao Amaro de Matosの本になると思います(その2冊だけ)。
後者は,MM理論を含むコーポレートファイナンスの主要なトピックスをより数理的に解説した本なのに対して,Tiroleは情報の非対称性を前提とした契約理論を中心にした理論の解説本です。
同じ「コーポレートファイナンス」の本ですが,切り口でこうも異なるのかというくらい違うように個人的には感じました。
数学的にはMatosの方が込み入ってますが,Tiroleは分量も多く,契約理論のベースが必要なので同じ経済学の範疇でも必要な基礎はやや異なります。
契約理論やインセンティブに関する書籍は日本語でも一部非常に分かり易く(しかも分量がそれ程ない),基礎作りに適しているものがありますので,本書を読んでいて理解に困った時は参考にすると良いと思います。
私は英語がそれ程得意じゃないので,そういう読み方が一番効率的だと思います(他の洋書を参照するという手もありますが,余程時間的な余裕がないと,参照する本を読むだけで時間が取られます)。
決して簡単な本ではないですが,実務家にとっても興味深い一冊と思います。
一歩進んだコーポレートファイナンスの教科書。
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コーポレートファイナンスというと、DCFやMM命題などが書かれている教科書が思い浮かぶかもしれませんが、この本は違います。契約理論の立場からエージェンシー問題をさばき、現状のコーポレートファイナンスにおける諸問題を包括的にまとめている本です。とてもシンプルなモデルが、現実の様々な問題にストンストンと当てはまっていく様は非常に美しいです。
非常に読み応えがある名著だと思うのですが、ちょっと英語が読みにくいです… ただ、Tiroleの言い回しに慣れている人には大した事がないかもしれません。
本書はぱっと見簡単そうに見えて(?)なかなか読むのに骨が折れます。契約理論やゲーム理論を勉強したことがない人が読むと大変な目にあうので、「経済学のためのゲーム理論入門」→「The Theory of Incentives」の順番で読んだ後に取り組むことを勧めします。 (レビュアーー本人の体験による。)