そこでさっそく日本語に訳されたものも読んでみました。驚いたのは、著者は十九世紀の人なのに、口語体の訳がぴったりはまってるんですよね。
暴言を承知で言うと、ホイットマンを日本語訳すると「おお!~よ!」とか「わたしは」とか、どこか大仰になってしまい、なんだかなあ……と感じてしまうのですが、ディキンスンにはそれがありません。
著者が女性なので「わたしは」という訳が格式張って聞こえないというのもあるでしょうが、それ以上にディキンスンの詩が現代の日本の感性にちょうど合うんだと思います。
この詩集には収録されていませんが、コオロギの鳴き声を「哀歌」と詠んでいるところなどまさに日本人の感性です。表紙に印刷された「わたしは苦悩の表情が好き~」というフレーズも、どこか椎名林檎さんのよう。
日夏耿之介・安藤一郎・岡隆夫・新倉俊一という四種類の訳のほか、付録として海外の評論家のディキンスン論も収められており、かなり充実した一冊でした。