Happy endingではないけど、元気になる作品。
★★★★★
Paul Austerの作品は、装丁がいいのでいつもFaber and Faberで読んできたのですが、Picador版で読みました。
Faber and Faberよりも判型が大きく活字が大きそうだったので。
実際に、手に取ってみると確かに活字も大きく行間も広く取られていて、大変読みやすかったです。
これからは、Paul AusterはFaber and Faberではなく、Picadorで読みたいと思います。
Paul Austerの作品は、今回が8作目でしたが、今まで一番読みやすかったですし、読むのが楽しくてしかたがなかったです。
読み終わってしまったのが、残念でなりません。
時間があれば、3,4日で読み終えられたのではないかなと思います。
ストーリーについては、すでに他の人も書かれているので、簡単に触れるに止めたいと思います。
主人公は、Sidney Orrで34歳の小説家。妻はGraceという名で、出版社で装丁の仕事をしている。Sidneyは大病をして、現在はリハビリ中。
街を散歩していて、偶然見つけた文房具屋でポルトガル製のノートを見つける。
そのノートに小説を書き始めてみたら、筆がぐんぐん進む。
喜んでいたのも、束の間、Sidneyの運命は大きく狂い始める。
Sidneyがこの青いノートに書いていた小説のタイトルが、"Oracle Night"
Oracleとは、神託という意味だそうで、「人は自分の運命を前もって知っているんではないか」というようなことが書かれていますが、
個人的には、この小説を読んでもあんまりぴんと来ませんでした。
Sidneyは自分とGraceとの出会いをモチーフにして、作中小説を書いているので、
読んでいるうちに地の小説と作中小説が頭の中で渾然一体となって、ちょっと「トリップ感」が味わえました。
この小説のおもしろいのは、残りの数十ページになって物語が急速に展開していくことです。
それもぜんぜん予期していなかった結末が待っていました。
この作品は、New Yorkが舞台なので、New Yorkが好きな人にも、おすすめですし、“New York Trilogy”が好きな人にもおすすめです。物語の味わいは多少違うと思いますが。
それ以外にも、SidneyとGraceの会話を読んでいると、結婚生活ってこんなものなのかなって感じで読めて参考になりました。
私が読んだPaul Austerの作品の中で、最もおもしろい作品で、自信をもっておすすめできます。ただ、一番優れた作品となると、”The Music of Chance”ということになるのではないでしょうか。
不安な「気分」を呼び起こす Oracle
★★★★★
書店で何気なく手に取った本だった。初めて読む Paul Auster 作品。簡単に読めそうな207ページの薄さと、『Oracle Night』 というミステリアスな響きに惹かれた。沈み込むようなくすんだ色調の表紙には、光り輝くニューヨークの街と黒く聳えるブルックリン橋。買うつもりはなかったのに、その時の「気分」のようなものに促されて買ってしまった。
内容は、手にした時感じた以上に不安な予感をかき立てた。主人公 Sidney Orr は ブルックリン の文房具店 Paper Palace でポルトガル製の青いノートを購入する。この青いノートに小説を書き始めると、時間を忘れたかのように筆が走る・・・。この不思議なノートとの出会いにも似て、読者は『Oracle Night』を手にした時から小説の不安な世界を共有することになる。4ぺージにもわたる脚注や、長々と挿入される昔話、小説中小説もすべてが Oracle だったのか、やがて不安は真実味を帯びて来る。そしてザワザワした予感を残して終わる。「C'est La Vie」ということなのだろうか。
それにしても、一貫して不安な「気分」をつむぎ出す Auster の手腕はすごい。どっぷりとハマッてしまったが、なかなかどうして一筋縄ではいかない作家という気もする。
一気に読みました
★★★★☆
正月の3日間で手軽に読めそうな洋書はないかと探し、何気なく目にした厚さが手頃な本書を手に取った次第ですが、よく出来た小説で一気に読みました。
物語は突然の重病から退院して自宅療養中の小説家が文房具店で青いノートを購入し、退院後初めての小説のプロットを書くところから始まる。小説の中にまた小説が描かれ、その中にまた小説があるという複雑な構造が巧みに描き分けられており、それぞれのエピソードが次々と展開して最後のクライマックスに至るまで飽きるところがなかった。
この小説家の著書はこれが初めてであるが、他の作品も読みたくなりました。
薦められるだろうか。
★★★★☆
この作品をオースターを読んだことがない人間に薦められるかどうかというと、ちょっと自信がない。
というのは、話が濃すぎるのと、
偶然で小説が進んでいき、最後がバッドエンドというのは
他のオースター作品と同様なのだが、
脚注の多さと登場人物と話の筋の多さ、(三つくらいある)
文学的背景を知らなければよくわからないもろもろのエスプリなど、
その辺りのことが多すぎて、
実に途中で投げ出してしまいがちな作品に仕上がっているからだ。
それは裏を返すとよくできた濃密な作品ということになるのだが、
オースターが好きで洋書にトライしているのと、
ただなんとなく洋書を読む気になって、
何の気なしにこの本を手に取るのでは、
本への取り組み方が変わってくる。
三つある筋のどれもがあっさりと読み手の関心を奪うのは
さすが熟練作家オースターだが、
それがぶつぶつ途切れたり、ぐるぐるからまったりするうちに
何が何だかわからなくなる。
結論として、オースター好きで、
翻訳が待ちきれないという人には薦められるが、
そうでない人には薦められない、
ちょっと難易度の高い作品に仕上がっている。
翻訳が出た後、日本ですごく批評家受けする予感はするものの、
作品自体のレベルが高すぎるために敬遠されるような気もする。
作品そのものは実にいい。
脚注も読んでいるうちに段々と気にならなくなる。
ただ、それでも星五つは出せない。
翻訳版にはきっと星五つをつけるにしても、それは別の話だ。
未来を「知る」
★★★★☆
実は人は自分の未来を「知って」いるのだ。例え、自分でそれを自覚していないとしても。なぜなら、まさにこの一瞬一瞬を生きることによって、私たちは未来を作りだしているのだから。全て繋がっているのだ。謎めいているけれど謎ではなく、あるべきしてあるもの、それが現実なのだ。Oracle Nightのページを繰るに従って、そんな感覚に、じわじわと静かに浸っていきます。謎めいた、時として幻想的なトーンの底に、人間の強さ、しぶとさががっしりと錨を下ろしています。読み応えのある本です。ただし、注の多さには多少閉口しました。