現実と虚構の狭間を浮遊するような、妖艶な作品
★★★★☆
岐阜県本巣市(旧根尾村)にある薄墨の桜。
樹齢1200年を誇る桜の大樹は、春の風物詩としてつとに有名。
岐阜からそこへ向かう国道157号線は、現在ではよく整備(その先は断崖絶壁狭路ですが)され、
その桜の咲き誇る時期だけ、鈴なりの渋滞ができる。
かつてはまさに老い朽ちる寸前の老木であったこの桜を再生するきっかけになったのは、
宇野千代氏の小説であると、現地で聞いていた。
その小説「薄墨の桜」は桜再生にかける人々の情熱や苦労を描いたドキュメンタリータッチの小説・・・
なんて勝手に思い込んでいたら、読んでビックリ。
事実を織り込みつつ巧妙に作られたフィクションで、薄墨桜を巡る女たちの執念や複雑な運命を描くドラマだった。
主人公は、恐らく著者を擬したと思われる着物デザイナー。
彼女の一人称叙述体で、事実と虚構を織り交ぜて、薄墨桜を軸に、女豪傑的な富豪の女将や、
その美貌の養女の人生が絡み合いながら、ストーリーは展開してゆく。
フィクションと現実の狭間を漂うような感覚は新鮮、かつ妖艶で、つい引き込まれる。
ストーリーはやや現実味に乏しいものの、女性の妄執のようなものを描き切る宇野氏の筆には、
流石この人ならではの味があると感じた。
薄墨桜の放つ妖気は、昨今の観光地化でやや薄れたと思われるが、
小説のそれは決して色褪せてはいない。
短いので気軽に読める。是非ご一読のほどを。
人生遅く咲く花が 輝く
★★★★★
~出張先の岐阜から帰る途中のタクシーの運転手さんが岐阜では 桜が一週間遅れて咲く桜があるって教えてくれました。樹齢1200年。他の桜が散ってから満開になる桜。1200年耐えて生き抜いているんですよね。それで桜の色も普通の色とちがって薄墨色だとかだから薄墨桜とも言う。作家の宇野千代が”薄墨の桜”という小説の題材にしてそれで有名になって~~観光バスも来るようになったそうです。
作者のこの桜を蘇させる為の執念に頭が下がる。結果蘇って今は 逆に観光地になってしまった。
人生色々、人より出世も遅れたり、病で焦ったりと中々生きる事が難しいですね。けれど皆が引退してから咲けば薄墨の桜のようにひと目おかれえる存在になるんだなってことを思って自分の路を歩きませんか。~