迷宮街を取り巻く物語も佳境。様々なフラグを立てつつ、最終巻に
★★★★☆
現代版Wizardryである、迷宮街クロニクルの第三巻。
二巻に比べるとボリュームは少なめで、また迷宮に潜る描写も少なめではあるものの、
第二巻で動き出した『ある計画』がメインなので、物語としてはきちんと動いているので面白い。
もちろん、描写は少ないといっても、そこは生還率がきちんと設定されてる迷宮街、
唐突に登場人物が死ぬのも健在です。まさかあの人が……と今回も驚かされました。
『ある計画』は、Wizardryをプレイした事がある人間なら、「あぁ、やっぱり」と予想出来ただけに、
計画を現実的に進めるとこういう風になるのかと興味深い。こういうリアルに落とし込む作業が、
この作者は上手いなぁ。
あと、メインの登場人物である(群像劇なので主人公とは言い切れない)真壁啓一の人柄が判明して、
賛否両論というのも面白いところ。好青年かと思いきや、いやぁ、なかなかヒドイ人物でした。
個人的には好きなんだけど、確かに迷惑な人間だなぁと。
ともあれ、かなり色々なフラグを立てまくった状態で次巻に続く。
修羅場が続くだろうと思われるだけに、最終巻が待ち遠しいところ。
革新
★★★★★
地下で発見した石を装備に埋め込むことでの強化、2期の優秀探索者の1期最前線チームへの出稽古、ゴンドラ設置計画という大転機等
明るい話題とそれに対応するかのような悪い事件の数々
3巻は表の部分と裏の部分の対比の上手さに舌を巻く思いでした。テレビ放送された恩田や今泉とそれを見たかつて迷宮街に居た二人の喜びとそこに潜む真実
ゴンドラ設置計画のための説得の旗印として交渉を続ける真城雪とその影で反対派中核の中ギュウに働きかける野田双葉
また主人公真壁の周りの人間関係の描写も多くここでも作品を通して書かれ続けている迷宮街で暮らせる人間とその外の人間の価値観の差に多く触れられています
これらの例に限らずこの作者は何かを比べて描写する技術がとても高いです
そしてようやく明らかになった真壁の体力テストでのえげつない行為。非常にクレバーかつ思いついても実行はできない大胆な行為には感心させられました
あと非常に地味ではありますが商社側の人間である後藤の商売に関する描写が登場当初から一貫して妙にリアルな面もポイントが高かったです
グズグズの群像劇
★★★★☆
各人の思いがまためんどくさい方向にこんがらがり、読み方によっては一番楽しめる巻です。
きちんと迷宮探索はやっていますが、本文は人間関係に重きをおいているのであまり印象に残っていません。ですが今回も実にあっさり重要人物が死にます。ご安心ください。
嵐の前の静けさ
★★★★★
現代京都に地下迷宮が出来た話の三巻。ネット小説版は未読ですが、それで困るような部分は特になし。ネット小説版を知らなくても問題なしです。
二巻から引いていた件が、ようやく本格化。迷宮街と探索者達に大きな転機が訪れました。迷宮街事業も商売であり、商業行為であるがゆえの問題も出てきました。探索者や探索者以外の迷宮街関係者に商人と研究者。多くの立場の人たちが話を展開していきます。
三巻は割と横道が少なく、大きな本筋と真壁周辺の話が多かったように感じました。次がラストという事なので、話をまとめにかかって来ている感じです。
死亡フラグっぽいものもありました。最終巻で誰が死に、誰が生きるのか、そして誰が迷宮街を去るのか。話の続きが気になって仕方がありません。
あと一巻で終わりそうには見えませんが、そこは作者の筆力に期待。これだけの話を作り続けてきた作者なら、きっと素晴らしい最終巻を作ってくれるでしょう。
特異ではあってもやはりそこは「街」だった
★★★★★
かつてWebにて公開されていた某RPG小説の商業書籍版第3弾。
1巻を読んだ時は某RPGが元ネタであることを必死に否定するかのような描写に落胆したものですが、2巻3巻とWeb版にはなかったエピソードが追加されたことにより、迷宮街に生きる人々とその外側で関連を持つ人の心情がより深く掘り下げられていると感じます。
3巻では舞台となる迷宮街という街の性質、主人公真壁啓一の裏側の描写に力が入れられていると感じます。
前者を描く為に登場する新キャラクターがマドンナこと野田双葉であり、後者を描く為にWeb版では目立たなかった奥野道香が思いがけない行動に出る。
思うにこれらは、Web版にて読者から思いの他迷宮街と真壁啓一に対し好意的なものが寄せられたことに対する作者なりの回答ではないでしょうか。
かと言ってその回答は旧来のイメージをぶち壊すものではなく、あくまで「掘り下げたことにより見えた一面」であるところがポイントです。
かつて迷宮街に触れた身としてはこのような見方になりますが、初見の方であればまた違った見方になることでしょう。
迷宮街という特異な街にそれぞれの理由・思惑で接する人々の群像劇を是非ご賞味あれ。