日本農業の問題点をつまびらかにする好著
★★★★★
ふとしたことで日本の農業、農政に興味が湧きまして手にとった本書。フィーリングで選んだ割りには「大ヒット」の1冊でした。
本書の切り口は「企業が農業に参入する利点、課題」ということになりますが、内容的にはもっと大きなテーマや別の切り口も提起されていて、大変示唆に富む内容となっています。
まずは序盤で日本の農業の課題を概観します。農業従事者の年齢構成、専業と兼業の比率、兼業農家の内訳などから、農地法など…。読者は読み進む前に大ぐくりに日本の農業、農政をつかむことができます。
中盤以降は、農業に取り組もうとする企業の取り組みが紹介されますが、そこであぶりだされるのは、農政の深く、重い問題点の数々。
例えば、農地法。土地転用を防ぐ(農地の確保)意味で設けられたにも関わらず、新規参入の高い障壁となり、日本農業の活力(=コスト競争力)を奪っている現状…。例えば、兼業農家。一般的には(そして私も)農業では食べられないから出稼ぎ、というイメージですが、今はむしろ、サラリーマンが週末農業で米を育て高い農業所得(なぜなら主に農協によって高い米価が維持されているから)を得て実は「富農」であったり…。
日本の農業があまりにも硬直的過ぎることに愕然とさせられます。コスト競争力を高めていくために企業セクターの農業への参入をもっと促すべき、という著者の主張は極めて説得力があると感じます。「農業は装置産業」など、新鮮なキーワードもあり、とにかく農業への問題意識がかなり刺激される好著です。
なお、著者は農水省キャリア出身ながら、日本農政の問題点を鋭く批評し、特に農協批判において著名な方(らしい)。本書でも随所に農協批判がでてきます。これらも説得力十分。異なる視点をもつために農協サイドの反論を聞いてみたいところです。