The Lexus and the Olive Tree
価格: ¥1,493
1992年某日、トマス・フリードマンは日本にあるトヨタ・レクサスの工場を見学し、ロボットが高級車を組み立てる光景に目を見張った。そしてその晩、新幹線の中で寿司をつまみながら、中東パレスチナ・イスラエル間で新たな戦闘の火花散る、という記事を読み、がく然とするのだった。世界の半分がレクサスのような高級車に向かって、少なくともレクサスを完成させるほど輝かしい技術に向かって邁進(まいしん)する一方、もう半分の世界では、どちらがオリーブの木の所有者かを巡って争っているとは…。
フリードマンは、ニューヨーク・タイムズ紙で外交問題を扱う、旅の経験も豊かなコラムニスト。本書ではスパイスのきいた語り口で、メインテーマを例証する話をつづっていく。多くの個人や国家が昔から大切にしてきたもの(オリーブの木)を手離すまいと抵抗しても、実はグローバリゼーション(レクサス)こそが冷戦後の世界をつかさどる主原則である、というのがこの作品のテーマである。
問題はこのグローバリゼーションの真の意味を理解している者がほとんどいないことだ。フリードマンが言うように、一見するとその概念は、アメリカへの覇権集中化、つまり、世界を隅々までディズニー化すること、に尽きるようだ。だがありがたいことに、国際関係やグローバル・マーケット、それに国家権力に関わりをもつビル・ゲイツやオサマ・ビン・ラデンといった個人の力の台頭が絡み、それほどすんなりとはいかないのが現実である。
グローバリゼーションによって世界がこれからどのように変わっていくのかを知る者などいない。だが本書は、ときには雄々しく、ときにはしかつめらしく見える新しい世界の全体像をつかむには、申し分のない1冊である。