英語圏で定評があるリーマン幾何の現代的な入門書
★★★★★
この本は『多様体とリー群の基礎』に関する有名な教科書の中で、著者F. Warnerが"A very beautiful development of basic Riemannian geometry is given"と推奨している書の英訳である。
前半の線形接続、測地線、曲率、Jacobi場、などの基本事項の解説から始まり、後半のエネルギーの変分公式、Jacobi場の比較定理、モースの指数定理、などを経て、1/4ピンチングに関する「球面定理」の証明がこの本の最終目標となっている。その内容と理論展開はリーマン幾何学の書として典型的なものであり、Warnerの言葉通り入門書として非常に良く書けている。また、各章末に面白いExercisesが数多くあり、難しいものには殆ど解答といえるようなヒントが与えられているので、初学者でも通読するのに大きな困難はないだろう。
一方、上半空間の等長変換群を記述するLiouvilleの定理(§8.5)、コンパクト正曲率(可符号)リーマン空間の等長写像に関するWeinsteinの不動点定理(§9.3)、コンパクトリーマン空間の等長埋め込みの非存在に関するMooreの定理(§10.3)など興味深い話題にも詳しい解説があるので、経験者にも大いに参考になる。
本書の読者には、関連する多くの話題が簡潔明瞭に解説されているミルナーの名著『モース理論』をあわせて参照されると、更に理解が深まると思う。また、本書より更に進んだリーマン幾何学のテキストとして、Jacobi場の比較定理を体系的に取り上げている酒井先生の『リーマン幾何学』をおすすめしたい。