西洋化と東京集中の愚かさを語る期待にたがわぬ内容
★★★★★
「陰翳礼賛」は乾正雄の「夜は暗くてはいけないか」を読んだときに、その引用元として登場したので以前から読みたかった本だ。そして、事前の期待を裏切らない本だった。
本書では日本文化、日本建築の特徴を自分なりに解釈して、その造作や機能性を分析し、影を作ることで光の存在を際だたせる演出していると読みとっている。そこから衣食住、藝術、女性に至るまで、その解釈を敷衍していくところが著者の面目躍如たるところかと思う。灯りの乏しい座敷で黒うるしの椀から赤味噌汁を頂くところの描写が何とも言えずどきどきした。
本作品集全体では、雑誌への寄稿をまとめただけあって内容的に重複する記述が見られる。しかし東京出身の谷崎が「西洋と東京の礼賛」から「日本固有文化と関西・地方への礼賛」へと移り変わる自己分析。そして西洋化する文化に対して、日本的な文化に対するこだわりと正当な評価を要求するくだりは、いつの時代に読んでもそれなりに納得するところがあると思う。
なお、本書は新書の軽装版だが、日本的な感覚からは離れた欧州的な斬新な装丁という感じだ。谷崎のモダーンでありながら、伝統に対するこだわりとマッチした感じで、すごく似合っていたことを付け加えたい。