百年前の日本を読む
★★★★☆
Lafcadio Hearn=小泉八雲 の無数の随筆の中から、米人の日本文学者Donald Richieが選び解説を加えた選集である。編集の意図は、八雲が見た1900年前後、明治維新直後の日本と日本人を鮮明に紹介することだったろうか。
昔読んだ八雲の怪談にそれほど興味を持たなかった私は、上記の意図にこそ強い興味を持って本書を入手した。西南戦争で薩摩軍が松江を焼き払ったのは僅か23年前だったと語る車屋の話もある。露皇太子に警官が切り掛った大津事件に、切腹して詫びる元武士や、自害する女性も登場する。日清・日露戦争の国内の様子も描かれている。
平和で穏やかで礼節を尊ぶ町の風景と人々の暮らしを八雲は描き「文明は劣っていても文化は尊敬に値する」と評する。生け花の洗練に比べれば西洋のブーケは野蛮だともいう。
時代差のせいか私の英語力不足か、あまり日頃見かけない知らない単語が時々出てきて辞書のお世話になった。しかし八雲の文章は美しく抒情的だ。自宅の庭を題材に一章を書いて飽きさせない作家はそうは居ない。
抒情を離れた最終章でギョッとした。少し前の明治維新までの封建制がまだ日本には実際上色濃く残っていて、人々は「家」「ご近所」「氏族」の不文律に縛られ、個人の優越性や競争は抑制され、全体の一員であることが求められるから、個が育たず将来外国と競争になった時に不利になるだろうと予言している。以降1世紀以上経過した今になっても、これらの傾向は日本人の特徴として強く残っていて、現に外国との競争で不利に働いていると私は思うからだ。