アルバム『Rid of Me』(1993年)で鬼プロデューサーのスティーヴ・アルビニと対立し、U2のマネージャーでもあるポール・マクギネスと手を組んだポーリー・ジーン・ハーヴェイ。これでやっと前々から取り組みたかったアルバムに全力投球するための体制が整った。アルバムの開幕早々、重低音がうなりを上げる「Meet Ze Monsta」が聴く者を圧倒する。ここでハーヴェイは、みずからの女性心理に足を踏み入れる。その激情と荒々しいパワーは、パティ・スミスの最盛期以降、ついぞ耳にすることのなかったものだ。ただし、結局は自己矛盾を見せてしまうスミスと違って、ハーヴェイは見事な軌跡を描き出す。不信に満ちた悲歌「Working for the Man」、イヤミのきいた「Long Snake Moan」、おどろおどろしいファズ・トーンが効果的な「Down by the Water」など、一本筋が通った展開を見せる。
ハーヴェイのことをアート・パンクの領域から脱却できないアーティストと思っている懐疑派のみなさんは、だまされたと思ってストリングに彩られたフラメンコ調の「Send His Love to Me」をお試しあれ。(Jeff Bateman, Amazon.co.uk)