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信長燃ゆ〈下〉

価格: ¥1,680
カテゴリ: 単行本
ブランド: 日本経済新聞社
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   天下平定間近の織田信長と、そんな信長の野望を阻止せんと必死に食い下がる近衛前久。この不倶戴天のライバル同士の対決と葛藤が、この小説の基軸になっている。信長は、ひたすら天皇を超越する存在になろうとしている。朝廷を預かり、天皇家を守る前久にとって、それは到底容認できることではなかった。下巻では、2人の対立は傾斜度を増し、ついに前久は信長誅殺を決意し、その一計を案じることになる。

   東宮夫人・晴子との道ならぬ恋に、信長自身うつつをぬかしている間にも、じわじわと形成される信長包囲網。前久は、最後の仕上げとして、光秀に信長暗殺の斬り込み隊長になるよう迫る。さらには、首謀者たちと引き合わせて、彼を「本気」にさせようとする。これが本能寺の変直前に開かれた、有名な愛宕神社の歌会である。

   光秀が詠んだ「ときは今天が下しる五月哉」という句は、謀反のくわだてが読み取れると従来解釈されてきたが、著者はこれを一蹴する。光秀ほどの教養人が、自分の野心をひけらかすほど不作法ではないというのだ。むしろ、挙兵せよと促されたことに対しての覚悟の返答なのだと、著者は『平家物語』などを用いて開陳している。このくだりは、斬新な謎解きを見ているようで、非常にスリリングである。

   本能寺の変を朝廷対信長の王権抗争ととらえることによって、この事件は俄然新鮮味とおもしろみを得た。無駄のない文体と描写が、さらにこの小説を力強いものにしている。(文月 達)