ひたむきな前半生の自伝
★★★★★
沢村貞子の著書は色々読んできたが、これが9冊目だ。他の本は、生まれた浅草の事や役者時代、その後仕事を辞め老後の生活が主であるが、本書は生まれてから役者になり戦争に遭い終戦で終わる、彼女の前半生についてが詳しく語られている。
テレビ連続ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」の山岡久乃と似たところがあり、共に日本のお母さんとして、私の大好きな女優であったが、貞子の方は大学まで行っただけに文才があり、数多くの著書を残してくれ、どれも歯切れの良い下町娘の言葉で書かれて楽しく、色々と教えられることが多い。
本書で中心を成しているのは演劇を志したがために、プロレタリア演劇集団に属し、役者としてより左翼政治運動に否応なく組み込まれ、真剣に行動したがための数々の試練を受ける様が語られている点だ。
私としては1年間獄中に在った程度の認識だったが、それは大変なことであった。その1年間の刑務所生活の後保釈、機関紙配布で又捕まる。全裸にされ拷問を受け気絶、気がついたら親切な看守の手当てを受けていた。
何も知らない下働きだったのに、指令した上級者である夫は、捕まって簡単に口を割り、自分や仲間が捕まったことを知り夫に失望する。結果通算1年8ヶ月収監されていたそうだ。
懲役刑となるも執行猶予で釈放されるが、勤めは見つからず、兄の世話で映画女優への道に入ることになり、最初から真っ直ぐなものでないことが分かった。彼女の生真面目でひたむきな性格がこの自伝からしっかりと伝わってきた。