カポネからの視点
★★★★☆
「アンタッチャブル」すら見ていない、カポネ初心者からの意見です。
上巻はアル・カポネの視点で物語は進行します。イタリア移民の少年カポネはギャングのボス・ジョニーにその才能を見込まれ、裏社会の一員になります。最初は殺人に動揺し、裏社会のルールにとまどうカポネですが、ギャングの世界に身をおくうち、ギャングにもビジネスや社会慈善の精神が生きていることを実感しだします。やがてギャングの帝王の立場に立つカポネ。そのとき、彼はイタリア系差別・貧富の差など表の社会の矛盾を裏の社会から正す・王になることに義務感をもつようになります。
筋運びが面白く、上巻はさくさく読めます。最初のうちはギャングの世界に戸惑いながら次第に心からギャングになっていくカポネ。そして帝王の位置に上り詰めるためにはかつての上司や仲間との対立は避けられません。
しかし気になるのは断定的にギャングの存在意義や大義名分を語る部分が多いこと。裏社会の安定、表の社会の偽善という構図が悪いわけではないのですが、カポネの正統性を語る部分が多すぎるように感じました。例えば対立的な視点としてカポネを批判する別のギャングの内面、カポネの行動を一人冷静に追及する報道記者のようにカポネを否定するような視線を設けたほうがよりカポネをみじかにかんじられたような気がします。もともと大犯罪者として批判されてきた人物を「よい面もたくさん持っていた人間くさい人物」として書きたかったのでしょうが、あまりに良さを強調してかえって人間味を感じられなくなっているような。この傾向は下巻でさらに強くなっているようです。