閉塞した世界の中で、息苦しさに耐えかね、自分は自分の才能に相応しいものを与えられていないと憤る男の話。
(マッチョで奴隷出身なジュリアン・ソレル(赤と黒)の話って気もしますが・・・)
簡単に自惚れに転換する自尊心と、「アウトローとして生きてやる」と開き直っても、社会に認められる事を諦めきれない自己顕示欲。
心の奥底では自分を浄化してくれる聖なるものを望む弱さと健気さ。
なのに、欲望に弱く、己の行いを改める強さを持てず、と言って、己の犯した悪行を「それがどうした」と開き直る事もできず、自己正当化する。
このような現代人的な「業」を持つ主人公を受け入れられるかどうかで、この本を楽しめるかどうかが決まると思います。
あけすけに、身も蓋もなく主人公の行いと心理を描写するのが得意な著者の作だけに、潔癖な人や、自分の「業」を客観視できない人には不快感が募るだけかもしれません。
逆に、自分を突き放してしまえる客観性を備えた人ならば、主人公の行いを我が身に照らして感じる所もあるかと思います。
混沌を極める革命後のフランスで、
同じく台頭してきたのがナポレオン・ボナパルト。
彼にとって、共和制とは自己の栄達のために利用すべき手段でしかなかった。
運命のいたずらとだろうか、
信条の異なる二人は、ある時は互いを利用し、
またある時は反目し、決定的な決裂へ向かい突き進んでいく。
二人の確執に加えて、随所で描写されるデュマの内向的思索が物語に厚みを加えている。