彼からの便りがあるたびに、その足跡を一緒にたどるだろう
★★★★★
巻末の謝辞で本書の成立過程を読んで、ホッとした。実は本書に商業的なあざとさを感じていたからだ。でもこの作家に限ってはそういうことはないだろう、と言う思いが正しかったことが分かって安心した。
「悼む人」から続いて、この作品を読むと、静人の行動に再び心を打たれる。
同じ時期に読んだ「生き残る判断 生き残れない行動」(アマンダ・リプリー)に英雄的行動について「基本的には人は自分自身のためにそうしているんです。なぜなら、それをしないことで生じる結果に内心向き合いたくないからです〜(中略)〜利他主義者も一皮むけば、快楽主義者なのだ」という分析があった。静人の行動は英雄的というのとは違うが、行動しない自分を許せないと言う衝動はやはり自己を肯定したいための行動なんだろうかと考えてしまった。
彼はいつまで悼む旅を続けるのか分からないが、彼からの便りがあるたびに僕はそれを読んで、その足跡を一緒にたどると思う。
「悼む人」、坂築静人の記録
★★★★☆
直木賞を受賞した「悼む人」のスピンオフ的な作品です。
主人公・坂築静人が旅をしながら記録した日記形式になってますが、
この日記、実際に毎日、作者が主人公になりきって書き続けてたものらしいんです。
天童さんの死に対する思い・・・ひとつひとつの作品を読むたびに深く感じます。
「悼む人」を読んだ時にも感じたことだけど、やはり私には静人のやっていることは静人自身の自己満足としか思えない。
頭ごなしに静人を「あたま、おかしいんじゃない?」とまでは思わないけど、彼の行いが死者の喜びになっているとなると違う気がします。
でも、私が意識していないだけで毎日毎日、死のない日は1日たりともない。それに気づいちゃうと気が重くなりますね。
新聞で痛ましいニュースを目にしても、一体どんな残忍な犯人がやったんだろって犯人の人物像は気になるものの、
亡くなったのがどんな人だったんだろうってとこまでは、よっぽどの肩書があったり、珍しい経歴がある人でない限り気にはならない。
つまりはその記事を痛ましい命の灯が消えたこととしてではなく、ひとつのニュースとしてしかとらえてないってこと・・・。
そんな自分が悲しい。
命のかけがえのなさ、改めて感じました。
深く、心の奥を見つめる物語
★★★★★
「悼む人」の主人公、坂築静人の、日記という形態の物語です。
悼む人を読み、感動したからこの本を手に取ったわけですが、
最初読み始めたときは、あまりに淡々としているので、最後まで
読めるかとも思いましたが、後半、旅の途中で出会った人たちとの
エピソードなど、天童さんらしく、さすがにこれは日記ではなく
小説なのだと思いました。
全く落しどころのない、静人の終わりのない旅ですが、それを
ここまで読ませるのはすばらしいの一言です。
必ず「悼む人」の後に。
★★★★☆
本作は、単純に天童さんの新刊と思って手に取ると、
大失敗します。
それでなくても前半3分の2くらいは、
個々に亡くなった人のエピソードが綴られているだけなので、
読み続けるには根気がいると思います。
ただ、特定の人物が何度も現れるあたりから、
先が気になり最後まで読むことができました。
本作は「悼む人」のサイドストーリーと考えても、
つらい内容でした。
帯封に”「悼む人」を超える感動”とありましたが、
残念ながらそれはあおり過ぎだと思います。
作者の覚悟。
★★★★☆
一昨年末に読んだ『悼む人』。
あれは、衝撃的だった。
なんというか、
作者の意気込みと言うか、
覚悟と言うか、
そんな気合を見た気がした。
その主人公だった、
“悼みの旅”をしている静人。
彼がつづった日記。
本は作者自身が、
作品創作のためにつづっていた日記。
それもまた創作である。
人の死を知り、
その死んだ人の善き事を覚えて悼むという、
理解しがたい行為で、
ただ、ただ、自分のために旅を続ける静人。
彼の“悼み”の記録。
前半、正直気が滅入る話が多く、
なんとも居心地悪い気分で読んでいた。
しかし、後半、
魅力的な人物たちの登場で、
がらっと雰囲気が変わる。
あ〜、なんと切ないことか。
ずっと、考え続けたい強いテーマが底辺に流れている。
そういう2冊だなぁ。