明治の文豪として漱石とならび称される鴎外。ほとんど別格の大作家として、その名声の高い割りには、漱石ほどには読まれていないのが実情のようです。
　ところが、Kindleの読みやすい画面で、ルビつき、新仮名で改めて森鴎外に接してみると、これが意外に面白く読めるのです。「雁」や「青年」「百物語」は勿論のこと、傑作と言われながらもなんとなく取っつきにくい印象のある「渋江抽斎」も松本清張を読むような感覚で読み進めていけます。
　新たな文明の利器の出現によって、ここにもう一つの「古きをたずねて新しきを知る」経験が可能になりました。
　そんな森鴎外の長短編３５、随筆７をまとめた電子書籍です。

　文語による「舞姫」「文づかひ」を例外として、作品の表記は「新字・新仮名づかい」を採用しています。ただ、いわゆる外字については、すべて補足してありますので「字の説明文」ではなく「漢字」そのものが表示されます。
　たとえば、『渋江抽斎』「その六十五」の冒頭の文章も、以下のような表示にはなりませんので、ご安心ください。

その号抽斎の抽字は、本※［＃「竹かんむり／（てへん＋（澑－さんずい））」、192-1］に作った。※［＃「竹かんむり／（てへん＋（澑－さんずい））」、192-1］、※［＃「てへん＋（澑－さんずい）」、192-1］、抽の三字は皆相通ずるのである。抽斎の手沢本には※［＃「竹かんむり／（てへん＋（澑－さんずい））」、192-2］斎校正の篆印が殆ど必ず捺してある。

　収録作品は以下のとおりです。

「渋江抽斎」「雁」「青年」「ヰタ・セクスアリス」「阿部一族」「興津弥五右衛門の遺書」「堺事件」「護持院原の敵討」「魚玄機」「百物語」「寒山拾得」「佐橋甚五郎」「最後の一句」「高瀬舟」「あそび」「沈黙の塔」「独身」「普請中」「二人の友」「花子」「じいさんばあさん」「かのように」「木精」「鼠坂」「鶏」「細木香以」「杯」「山椒大夫」「里芋の芽と不動の目」「心中」「食堂」「安井夫人」「余興」「舞姫」「文づかひ」「不苦心談」「寒山拾得縁起」「みちの記」「空車」「なかじきり」「サフラン」「高瀬舟縁起」