彼が殺された理由は「花嫁の貞節を奪った」からだが、誰もそれを信じず、彼を殺した理由は「妹(花嫁)の名誉を守る為」だったが、本気で殺そうとは思っておらず、だから周りに吹聴して実行が中断される事を願っていたが、誰もそれを止められなかった。
よそ者であった被害者と、同じくよそ者であった花婿、この二人がこの閉鎖された村で起った事件の被害者ともいえる。
彼らが、「神の前でも無罪」と言ったのは、自己の意思に反した犯罪は神の意志としてしか考えられないからであろう。それほど多くの偶然が重なり、この「予告された」殺人が決行されてしまった。
不思議な小説である。読めば読むほど、「殺人が起きた理由」から遠ざかっていく。こうした理論的な手法をとりながら、この様な印象を与え迷宮に誘うような印象を与える作者の技量はさすがである。