本書タイトル「なぜ―」の答え
★★★★★
●「なぜ――だまされるのか」という本書タイトルの答えは、「日本人には批判的態度が欠落しているから」である。だから、ハウツー式のつもりで本書に手を出した読者は痛い目に遭わなくてはならない。ところが、「二酸化炭素と温暖化に関係がないなんて知りませんでした」などと自分の無批判的態度に相変わらず気づかない読者が多いのは残念である。
面白いが単純化し過ぎた議論
★★★☆☆
「エコロジー幻想」「環境にやさしい生活をするためにリサイクルしてはいけない」など環境問題や環境保全活動に関する問題点・矛盾点を挙げた著書を多く出版している武田邦彦氏が次の主張を行っている。
1. 人間活動に由来する温室効果ガスが原因で地球温暖化は起こっていないか、起こっていてもその程度は小さい
2. 地球温暖化による被害は深刻ではない
3. 環境問題にを誇大報道する日本のマスコミの姿勢は問題である
4. 国民に正確に情報を伝えない日本政府の姿勢は問題である
著者の地球温暖化の科学的な議論は、主張としては面白いが、著者の主張に都合のよいデータと解釈のみを用い、過度に単純化された議論という印象が残る。例えば、著者は第1章でCO2濃度と地球の温度の関係を否定している。著者はこの2つの量の線形な関係を前提としているようだが、地球のシステムは複雑で、いつも線形な変化が起こるわけではない。複雑なフィードバックループの結果、非線形の変化が起こる可能性の方が高いのではないか。かなり複雑なモデルを使って説明しなければならず、この2つのデータのみで因果関係を語るのは非常に難しい。
第4章では気温の上昇に伴い海水の蒸発量が増え、その潜熱で気温の上昇が抑制されるという「負のフィードバック」を説明しているが、これ以外に「海温が上昇すると藻の活動が弱まり藻によるCO2の吸収が減る」「温暖化が進むと永久凍土中のメタンが大気に放出される」など温暖化が進むとますます温暖化が加速する「正のフィードバック」はたくさんある。他の正のフィードバックについては記述がなく、水蒸気中の水分の潜熱による冷却効果は他の正のフィードバックの効果を弱めるほど強いのかに関しても記述はない。実際は水蒸気潜熱のみによって気温が下がるほど地球のシステムは単純ではないのではないか。
マスコミの姿勢に関しては、もし記述が本当であれば著者に同意する。日本政府の姿勢に関しては、主張を支持するデータも強いとは言えず、その可能性もあるが、ただ1つの解釈の域を超えてないのではないか。
最終章と「おわりに」では未来のモデリングを否定し、代わりに夢や希望の重要性を強調しているが、明るい未来を真剣に考える人たちが問題に立ち向かい、知見を総動員して、明るい未来を実現するための戦略を練るためにモデリングなどの手法を使っているのではないか。夢とか希望といったきれいな言葉のみを強調する著者の主張には大きな矛盾を感じる。「明るい未来のために大いにCO2を出そうではありませんか。」には絶句。
分からないものは分からない
★★★★★
> 小学生に「温暖化によって南極の氷が解けて海水面が上がり、太平洋に浮かぶツバルという島が沈没している」と教え、
> 子どもたちが青ざめていたと報道されました。しかし、温暖化で南極の氷が解けているというのは真っ赤なウソ。
> ツバルが沈むほど海水面が上がっているというのも同じくウソです。
> そんなウソをいたいけな小学生に教えて怯えさせているのですから、日本の大人たちはいったい何を考えているのでしょうか。
⇒「ツバルはなすすべもなく地盤沈下の影響を受けていると思われます(『偽善エコロジー』)」
> 本書で取り組んでいる温暖化は、まさに「科学が創造した環境破壊」で、
> しかも「100年後」のことです。だれも100年後は生きていないので、
> おそらく検証が不可能な長い期間を置いて報告しているのだと、つい勘ぐってしまいます。・・・
> 私が温暖化に懐疑的なのは、科学が創造する環境問題の「予想される時期」が、だんだん遠い将来に設定されていることです。
結論を先取りする善魔(ファシズム)・・・ 予防原則。
水蒸気よりも圧倒的に少ないCO2を主ターゲットとする理由が分からない。
> 明るい未来のために、大いにCO2を出そうではありませんか。私は、真剣にそう思うのです。
100%の同意はできかねるが
★★☆☆☆
CO2と温暖化の関連について、小生は100%の確信を持って影響があるとは思っていない。ただ、資源枯渇化の観点で省エネには賛成だ。
で、本書に取り掛かると、作者が自尊しているほど科学的な内容ではない。最初の1/3は上手にかけているのだけれど、残りがいかんせん論理だっていない。
例えば、「温暖化の予想は今の技術が変わらないまま時間が経過したという前提がある」というが、その前提が科学発展の動機付けだと思うのだ。
そして、「日本人はなぜ環境問題にだまされるのか」という問いに本文が答えていないのである。
あまり真剣には読まないほうがいいだろう。
武田邦彦はなぜ自慢ばかりしようとするのか
★☆☆☆☆
この人の本、一通り読みましたが、一貫しているのは研究者など権威を批判・侮蔑し、自分こそが世界を見通している偉い人物といいたいのかなと感じます
彼の指摘している、批判している事項は非常に議論の余地があるもので、その点を喚起する意味は大きいでしょう。しかし、一方で、この著者は環境問題に関しての見識が浅はかであることも事実だと思います。
指摘の京都議定書は、確かに日本が最も苦しむ国際条約であり、1990年という1年値を基準年にすることは暴論だと思います。また、ホットエアというなんちゃって排出権を兆円単位でロシアやハンガリー、ウクライナへ税金で散財することもナンセンスだと思います。たとえば1990〜2000年の平均値を基準年にするなど、日本政府などはやるべきことがありました。
しかし、環境に関係する学者のひとりである武田邦彦氏が、これに非を唱えていた、あるいは人生をかけて、これを阻止しようとしていたのか?そのような事実は聞いたことがありません。はたして彼は当時何をしていたのでしょう。いまごろ、この点を得意げに批判してもなんの意味もないでしょう。
また、「温暖化は願ってもない変化」とし温暖化を進めるべきだという点も、あまりにも環境科学をないがしろにしていないでしょうか?
もともと地球温暖化というのは日本でよくつかわれる言葉で、普通世界的にな気候変動(クライメートチェンジ)というのが普通で、そもそも、世界的な科学機関で、武田氏がいつも批判するIPCCも正式名称は気候変動に関する政府間パネル (Intergovernmental Panel on Climate Change)だったりもします。
つまり温暖化とか寒冷化ということ自体が根本的な論点ではなく、急激な気候変動(地球的あるいは局所的)が問題で、特に深刻なのは、生態系(主に植物)が追随できないほどの気候変動がおきると大変で、「急激な」温暖化では、植物は適地を求めて北上あるいは山の上に行こうとしますが移動速度を超えれば絶滅の可能性とか、仮にシベリアやカナダが農業に適するだろうと言っていますが、その代りアメリカと中国の大穀倉地帯が激減する可能性や、シベリア、カナダに肥沃な土壌がすぐ生まれ、農業に十分な水があるのか、ここまで詰めていなければ、あまりに無責任な発言になります。既に農業生産量は、土地の広さではなく、水であるとも言われています(アメリカの穀倉地帯の衛星写真を見てみてください)
また京都議定書の密約(産業界はCO2を下げなくてもいい)も、かつてCDM(発展途上
での温室効果ガス削減事業)にかかわったのですが、産業界もノーペナルティでは無かったですよ。ただ、CDMが国内削減より安いのでみんな海外産排出権に走ったのは事実ですが。
しかし、なぜここまで武田氏は、批判ばかりするのでしょうか。批判はとても安易なことです。批判ではなく、世の中の流れを変えて良い方向にしようとすることはしないのでしょうか?
僕は批判より先にやるべきことをやってから、大きな口を叩きたいと思っている者なので、武田氏のスタイルは好きになれません。
ただ、ひとつだけ共感できる点は、省エネが進むとCO2とエネルギー消費が増大し、結果として減らない。これは間違いなく、実際に家庭用エネルギー消費などではそれがでています。
100Wの25インチブラウン管テレビを、200Wの42インチ「ブラウン管より省エネな」液晶テレビにしたり、10年前の半分の消費電力のエアコンを居間1か所から全部屋に設置、結局減りませんね。あるいは環境のトヨタ(本当に環境なのかは疑問ですが)がプリウスを売るのは、ガソリン消費量=CO2排出量制約のなかで、いかにたくさんの台数の車を売るための帰結とも思えなくないです。省エネではなく、抜本的なエネルギー消費や生活スタイルのシフトが求められていると思います
・・・って長く書きましたが、かなり気持ちを落ち着けて書きましたよ!