第1章の留学に関する部分では、HBSの特徴であるケースメソッドに戸惑った話や、ほかの留学生たちと語り合った金曜日のバーでの話、ゲストスピーカーとして登場したビル・ゲイツやウォーレン・バフェットに対する感想など、実際に留学した人ならではの貴重な話が盛り込まれている。第2章では「吾人の任務」とは何かについて言及される。「吾人の任務」とは、祖父堀義路の追悼集に書かれた短文のことで、そこには「『芸術学問を閑却し生活の為に生活の理由の滅却する』事のなき様にせしむるが吾人の任務ではないだろうか」と記されている。これは祖父義路の社会におけるレーゾンデートル(存在理由)とでも言うべきものであろう。第2章以下では、著者がこの短文に触発されて自らのレーゾンデートルを追求し、それを起業という形に変えていった様子が描かれている。アパートの一室を事務所とし、たった80万円の資本金で始めた創業初期、英国立レスター大学とのMBA提携プログラムの実現、そしてベンチャーキャピタル事業…。堀義人代表のあくなき挑戦の結果が、発展を遂げるグロービスという形で具現化されていく。
誰しも、自分のレーゾンデートルを実感することなく充実した人生を送ることは難しい。ここに描かれているのは、自らのレーゾンデートルを実現した1人の男の姿であり、人生のケーススタディーとして有用である。欲を言えば、もっと個々のエピソードを掘り下げてほしかったが、読者自らの「吾人の任務」を見つけるよいきっかけとなる。(土井英司)