次は"When Species Meet"
★★★★★
原著が出てからやがて20年、翻訳が出てからもうすぐ10年、この本は、こうはなって欲しくなかったアメリカ的日本がなぜ問題なのかを理解する手助けになります。
次は、ハラウェイが愛犬との行動・交流を出発点に遺伝子操作社会の暗闇をのぞきこんだ記録"When Species Meet"の翻訳が待たれる。
『霊長類の見方』が未邦訳の現状ではこの本しかない・・・
★★☆☆☆
フェミニズム科学論の雄ドナハラウェイの名著『霊長類の見方』(Primate Visions)は科学知識の生産と社会的イデオロギーの闘争が絡み合う様相を描いたSTS史上における重要な著作とされていますが未だ邦訳がありません。本書所収の数編の論文がハラウェイの霊長類学論のエッセンスを伺える内容になっているので一読の価値があると思います。
おおざっぱにハラウェイの議論を紹介しておくと、猿人から現生人類への知性の進化を決定づけた要因は何であったのかをめぐる論争史には実に色濃くジェンダー的な問題が孕まれているのだといいます。現生人類の知性を生み出したものは狩猟活動において必要となるさまざまな頭脳活動だという広範な支持を獲得した理論。そこでは狩猟者=男性を進化の主役に置くことで暗黙の女性差別がおこなわれている。事実その後人類進化の主役を採集者=女性に置く対抗理論が女性研究者たちから提起され議論を巻き起こすことになる。ハラウェイの示唆するところでは、そうした女性の主導的役割を強調する理論が提起され支持を集めたタイミングがアメリカにおいて女権運動が盛り上がり一定の成果をあげた時点であったことは偶然ではない。そうした知的環境下でしかそうした理論が提起されたり受容されたりすることは難しいだろうからだ。
一応そんな感じの議論だと僕は理解しました。この霊長類学論以外の論文の多くはフェミニズムやポストモダン思想によほど関心がないとついていけない超難解な内容になっていると思うので、科学論の立場からすると、本書全体としてはそんなに面白い本と太鼓判を押す気にはなれません。悪しからず。ただしポストモダン論の「サイボーグ宣言」は知的世界にそうとうにインパクトのあった論文なんだそうで、機械=非生命と生命の境界の曖昧模糊としつつある現代世界の文化的様相を鋭く指摘するその議論は、科学論的に見ても、確かに、科学論の主導者ラトゥールの強調する「人間=社会と自然は近代において対立などしていない、それはむしろ近代において渾然一体となっている」という科学論史上きわめて重要な「我々はこれまで一度もモダンであったことはなかった」論と完全に呼応しあった内容になっています。
ハラウェイが非常に鮮烈で強靭な思考力の持ち主であることは疑いもありません。難解すぎて読書体験としては面白くないとしても現代の知性のひとつの水準を示すであろう彼女の知的攻撃力のすごさは一見の価値があるでしょう。
ケリはついてる
★★★★★
理論的には、この名著によって、男女のなんやらかんやら議論(「本質」だの「構成(社会構築)」だの)のケリはついている。精神分析のケリもついてる。
勿論「理論的には」で、「現実」はそう巧くはいきませんが。「宣言」が必要なのもそのためです。
ハラウェイはこのあと「人間」に向かいます。そしてそのケリもつけてしまってます。すげえ。
単訳した高橋さきの先生もすばらしい。
「宣言」ではなくこちらを是非。