投扇興の勝負は運が左右するが、人生もまた同じだ。お千世は、日本橋通旅寵町の大店の呉服商の若い番頭秀三郎の投扇興を見て、この男、強運の持ち主だと見抜いた。板前直次郎の幼なじみの秀三郎は、貧乏育ちで、湯屋の下働きをしていたが、運に恵まれ、呉服商の娘美和と結婚し、若くして大店の番頭にのし上がり、後継者の座も約束される。しかし、栄光をつかみ取ろうとしたとき、魔性の女、常磐津師匠豊若と関係を持ち、罠にはまり、運の歯車が狂いはじめ、男女の愛と憎しみが絡み合い……。お千世と同心貴孝は、野望を抱いた若者の運のゆくえを、夏の風情の中で追う。