大拙氏の淡々とした声を通して禅の心に触れることができる。
★★★★☆
西欧の科学至上主義への批判に禅はどう対応するのかということ。1960年代当時の米ソ冷戦のイデオロギー対立への批判。そして西欧から輸入された概念、たとえば自由とか征服などの概念への疑義。共感と同情の差異について。さらに佳境に入って禅の世界について語るところなど、大拙氏の真骨頂を窺わせるくだりはぐいぐい引き込ませる。自由は人間において一旦否定されてはじめて自由を自覚する。白は黒であってもいいし、逆でもいいことになる。煩悩や束縛という足枷がふと外されるような瞬間、無碍の境地があると大拙氏は語る。大慧禅師の扇の話、事事無碍の話もまた面白い。科学の分析的知の裏側には禅的な無分別知があって、その切り結びに気がつかなければならないのでは?と氏は言う。禅独特の飛躍や直感があるけれど思考に淀みがないので易しく語っておられるが、捉えようとすると、するっと抜けてまことに奥深い。