しかし、読者の中には違和感を持つ人があるだろう。なぜなら、松下幸之助自身は、丁稚奉公と電灯会社に勤めたわずかな期間以外は、常に経営者として社員を遣ってきた立場の人物だからだ。
ところが本書で述べられている、それぞれに経験の異なる“社員としての心構え”の根底にあるのは、松下電器を大きくするための要求ではない。企業で働くことを通して、ビジネスマンとしての、いや人間としての幸せと成功を感得するには、こう考えたらいい、こういう生き方がよいということを説いているのである。
今、若者は働き甲斐を見出せず、中堅・幹部はリストラを恐れている。社員として働くとはどういうことか、いま一度、原点に返って考えてみるのに絶好の一冊である。